2008年11月25日

映画の感想「どですかでん」

 黒澤明監督
 映画“どですかでん”を観た。
 1970年の作品。
 戦後の混乱期の、あるスラム街での日常生活をたんたんと切り取った物語だった。
 原作・山本周五郎「季節のない街」、脚本・橋本忍他、橋本忍は今話題の「私は貝になりたい」を書いた人である。
 いわゆる貧困層社会の荒廃した、救いようのない世界を描いたものだった。監督はいったい何を訴えたかったのか。
 紛れもない社会派ドラマではあるが、切ないばかりの物語だった。
 これは戦後間もない日本の一部の話なのだが、私がぞっとしたのは、もしかしたら、これは過去に済んでしまった話ではないような気がするからだ。
 今の世だって、この先こういう環境に陥る人たちが出てくるのではないか。今の日本の現状を見ると、じゅうぶんありえる話なのだ。
 当時の人たちは、自分たちの現状を受け止めて、誰を恨むこともなく、ただ必死に生きていた。
 それに比べると、今の貧困層の人たちは、現状を受け止められず、人を恨むことでしか、生きる術がないのではなかろうか。当時の人たちとは違い、人間の質がヤワになってしまっているからだ。
 この差はいったい何なのだろうか。
 黒澤監督も、よもや、またこんな時代に後戻りするとは考えておられなかったのではなかろうか。
 これが経済発展を成し遂げた、日本国のなれの果てだとは、あまりにも切なすぎる。

 “どですかでん”というおもしろいタイトルであるが…、
 この映画は、そこに住むいくつかの家庭の日常を寄せ集めて、それをリンクさせて構成されているのであるが、その中の母親と息子の家庭の中からピックアップされたものである。
 その息子は知能が人より少し劣っている電車マニアなのだ。母親はそのことを案じながらも現状を見守るしかない。空想の中で生きている息子は、毎日電車の運転手として働いているつもりだ。その時、電車が走っている音として、彼が発していることばが、「どですかでん、どですかでん」なのだ。

 この映画は、さすがに黒澤映画だけあって、素晴らしい作品だった。
 しかし、38年前、私が見向きもしなかった訳もわかる。
 あまりにもりっぱすぎて、楽しむ映画ではないことだ。
 心に重くのしかかる作品だった。

posted by hidamari at 22:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 読後感・映画の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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