2008年12月03日

小説・父親の役目

17
 美代子はけげんな顔をして、秀男を迎えた。
 「何かあった?」
 「うん、ちょっとね。俺のごはんあるか?」
 秀男は努めて自然に振る舞った。
 「今から食べるとこだから、何とかなると思う」
 言いたいことは山ほどある美代子だったが、久しぶりに帰ってきた夫に、やはり嫌なことを言うのははばかられた。彼女は帰ってこない夫を毎日どんなに待っていたことだろう。夜になると、ますます心細く、本当は引っ張ってでも連れ戻したかったのだ。だから今夜の突然の帰宅はとても嬉しいことだった。
 でもそれを素直に秀男にむけることは出来なかった。つまらない意地もあったが、何よりその勇気がなかったのである。
 「そうか、子供たちいるのか?」
 「あたりまえでしょう、あなたじゃないのよ、あの子たちは他に行くとこないんだから」
 また、悪態をついていた。思わず口に出してしまうのが、美代子の悪い癖だった。
 気配を感じたのか、美代子が声をかける前に、小百合と賢が居間に入ってきた。
 「あら!パパ、お帰りなさい。今日は泊まるのでしょう」
 小百合はそう言ったあとで「何だかへんだよね、パパの家はここだもの」
 「そうだよ、パパ、どうして毎日、家に帰ってこないの?」
と、賢がちょっと声高に言った。
 「うん、今日はそのことで、パパ、みんなに話しがあるんだ」
と、秀男がちょうどよかった、とばかりに言った。
 小百合と賢の目に緊張が走った。2人は顔を見合わせた。
 台所に立っていた美代子は、背後で交わされている親子の会話を、かたずを呑んで聞いていた。18へ

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・父親の役目で連載中)

posted by hidamari at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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