2008年12月26日

小説・父親の役目

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 かつてはこの家にも家庭があった。美代子はそう思いたかった。子供たちが巣立っていく時が、秀男との別れの時でもあった。
 ずっと前から分かっていたことだった。覚悟はとっくに出来ていた。なのにこの空しさは何なのだろう。
 「私は何のために家庭を守ってきたのだろう」
 子供たちを1人前にするために。そうなのだ。それだけが美代子の意地だった。妻の役目をさせてもらえなかった、秀男に対する意地だった。そのために、秀男にも父親の役 目を果たさせた。
 賢は、社会人になるまで、まだ少なくとも2年はある。それまでは秀男が費用を出すことになっている。
 財産分与として自宅を美代子が取り、秀男は織江の元に去っていった。慰謝料として秀男の退職時に出る退職金の1/3を美代子が受け取るという約束を、弁護士を介して取ることも出来た。
 美代子は、いくばくかの貯えとパートで生活をしていかなければならない。ただ、美代子はまだ46歳だった。これから新たな再出発が十分に可能だった。
 美代子は何も後悔していなかった。
 ここに自宅がある限り、子供たちは事ある毎に帰ってくるはずだ。
 これからは、誰に執着するでもなく、水の流れに従って自由に生きていこう。
 美代子は、空しさの中にも、一仕事やり遂げた時に味わう清々しさも感じるのであった。

              了

(上記小説は、カテゴリー{短編小説・つぶらなひとみ}の中の、小説・父親の役目で連載してきましたが今回で終了しました)

posted by hidamari at 23:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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