2010年06月28日

ミニミニ小説・牡丹

bS
 研究室は4階建管理棟の2階にある。南向きだが、天気のいい午前中を除き殆ど照明は点けっ放しの状態になっている。
 昼間と部屋の雰囲気が変わり、比較的広い空間も俄かに抑圧的な感じになった時、アサミはやっと日没したことを知った。
 それほど仕事に集中していた。
 アサミは、左手の中指と親指で小鼻を摘まんで目を瞑った。
 その瞬間頭の中は空っぽだった。
 今の仕事は、機械的に順序良く資料を並べているだけだった。
 その時、
 「おおーっ、まだ居たの?」
 城ノ内が部屋に入ってきた。
 不意をつかれたアサミは、ほんとうにびっくりした。
 「す、すみません、もう帰ります」
 反射的にそう答えていた。
 「ご苦労さん、進んでいるみたいだね」
 アサミはそれに気楽に返事をすることが出来なかった。
 ただかすかに頷いた。そして机の上を片付け始めた。
 城ノ内も返事を期待している風ではなく、そそくさと奥にある教授室へ入っていった。
 時計は7時を過ぎていた。
 今この静まりかえった研究室に、ドアの向こうとはいえ、城ノ内と2人でいるということに、アサミはことのほか緊張していた。居心地が悪かった。1分でも早くこの研究室を出て行きたかった。
 かといって、戸締りをしていいものか、城ノ内に任せていいものか、躊躇していた。
 教授室は入口が2ヵ所あって研究室からも廊下からも出入りが出来るようになっていた。
 ただ、今城ノ内が入ってきたのは、研究室の入口からだった。
 アサミは教授室のドアをノックした。
 「お先に失礼します。研究室のカギ閉めてもいいでしょうか」
 と、声をかけた。bTへ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載中)
 

posted by hidamari at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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