2010年07月10日

ミニミニ小説・牡丹

 bT
「あっ、君、世良さんちょっと待ってて。僕も帰るから…そこまで一緒に」
 城ノ内は、ロッカーから背広を出しながら言った。
(なんで一緒に帰るのよ。学生同士じゃあるまいし、それに何を話せばいいのよ)と思ったが、アサミに逆らう勇気はなかった。
 「ハァー」と言って、城ノ内が教授室から出てくるのを待った。
 城ノ内が教授室から研究室を経て廊下に出るのを待って、ドアにロックした。
 それを見届けると城ノ内は「これちょっと持っててくれる」と言って、A4判の茶封筒をアサミに渡し、革靴のヒモを前かがみになって直した。
 アサミは「ハ、ハイ」茶封筒を胸に抱きながら、何か、変な気がした。
 悪い気持ちではない。決して人使いが荒いという感じではなかったのだ。
 むしろ心を許した人にする親しげな振る舞いに見えた。アサミは男性から受けた初めての経験だった。
 こんなことで胸がキュンとなる33歳の自分が、ちょっと情けなかった。
「世良さんお家はどこ?」
「東部台です」
「じゃあ電車?」
「いえ、団地行きのバスがありますから」
「最終は何時?」
「えっ!最終ですか?」
「うん、大和ホテルがビヤガーデンオープンしたんだって、飲みに誘おうと思って」
「えっ、私を…ですか?」
「そうだよ」
 アサミは、仕事のことで何かあるのだろうか、と思った。
 何かヘマをやったのだろうか。
 ほんわかしていた気持ちが、とたんに不安に変わった。急に気分が悪くなった。bUへ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載中)

posted by hidamari at 22:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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