2010年08月03日

ミニミニ小説・牡丹

bV
 屋上に特設してあるビャガーデンは、赤ちょうちんやライトがあかあかと照らされて、ざわざわした雰囲気だったが、せかせかした下界とは別世界だった。
 アサミは一瞬に気持ちが切り替わった感じがした。
 フワッとしたいい感じにである。
 ボーイらしき人がすぐに来て、「お2人様ですね、こちらへどうぞ」と丸いテーブルに案内した。椅子が3脚あったので、対面することなく、良い加減に2人は斜めに座ることが出来た。
 城ノ内はとりあえずといって中ジョッキを2杯頼んだ。
 生ビールはすぐに運ばれてきた。
 儀式みたいに乾杯して、城ノ内はアサミに聞くこともせず、食べ物を注文した。
 勤め帰りのサラリーマンやOLのグループが徐々に集まりだし、周りのテーブルを埋めていった。
 それとともに、四方から乾杯の気炎があがり、もはや静かに話が出来る状態ではないが、アサミにはそれがかえって居心地がよかった。
 城ノ内は椅子を近づけながら、真顔でアサミに話しかけてきた。
 「実は君に話があるんだ。明日職場ででもよかったんだが、ちょうど君が残っていたので…」
 「はい?」
 「それにたまには飲むのもいいしね」
 「はい」
 「実は大学が夏休みに入る7月の話なのだが、僕、フランスへ出張するんだ。前に勤めていた大学から集中講義を2週間やってくれというオファーが来ているんだよ。およそ40時間だから、みっちり講義をやらないといけないんだ。観光する時間はあまりないと思うが、向こうは助手1人分の手当ても出すというから、君さえよかったら、随行して欲しいんだけど、どうだろうか」
 アサミには俄かには信じられないことだった。bWへ
 (カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載中)
posted by hidamari at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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