2010年08月14日

夢小説・子取り鬼

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 目が覚めたのは翌日の朝でした。
 私は、恐る恐る部屋にある私専用の小さな鏡台の前へ行きました。
 鏡には、青白い顔で髪もボサボサでしたが、忘れるはずがない人間の私がいました。
 私はカメの姿から人間に戻ったのです。
 昨日までは、生きていることがただ面倒だったのに、今日は、生きていることが何という喜びでしょう。
 まるで、お母さんのお腹の中から初めてこの世に出てきたような気がしました。
 私は人間なんだ。しかもこんなにまだ若い。
 心がウキウキ踊りだすようでした。
 階下に降りていってシャワーを浴びました。
 まず、美容院へ行こう。
 そしてハローワークへ行って仕事を探そう、と思いました。
 お母さんにそのことを言うと、「お母さんはずっとそのことを待っていたんだよ」と言いました。
 泣いているようにも見えました。
 そして
 「外へ出る時は、窓を閉めて行ってね、昨日カメちゃんが外へ出てしばらく行方不明だったのよ」と、言いました。
 「カメ、いつから飼っているの?」と聞くと、
 「変な子ね、あんたに頼まれて先週買ってきたんじゃない」と言いました。
 そういえばそんなことがあって、しょっちゅうカメを眺めていたような気がしますが、すっかり忘れていました。
 学校の体育館から、今日も子供たちのキャーキャー騒ぐ声が聞こえます。
 きっと、あのハンサムな先生と子供たちで、子取り鬼ゲームをやっているのでしょう。
 ハローワークから帰ってくる時、校門の前で、下校してくる子供たちの集団と会いました。
 「昨日体育館にいたカメ、どこへ消えたんだろうね。クラスで飼いたかったのに残念だったよなー」
 「きっと、飼い主の家へ帰ったんだよ」
 そんな会話が、確かに私に聞こえてきたのです。

  子取り鬼 了

posted by hidamari at 22:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 夢小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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