2010年10月17日

ミニミニ小説・牡丹

bP4
 城ノ内とアサミは、無事パリ出張を終えて東京へ帰ってきた。
 アサミにとっては、夜中の12時が過ぎてまた元の現実に戻ったシンデレラの気持ちだった。
 城ノ内の態度は基本的には一貫していた。
 一方アサミは、城ノ内に対する思いが、出張する前とは全く変わってしまっていた。
 アサミ自身、自分の感情の変化についていけない状態だった。
 パリでは何ともなかった、城ノ内との何気ない会話や、足音にまで敏感に心が反応した。
 大学は夏休みなので講義はない。
 城ノ内は概ね研究室の教授の部屋で過ごし、アサミは助手室で過ごした。助手室には9人の仲間の席がある。その中で研修出張している者もいて、席にいるのはたいてい5〜6人だった。アサミはその中で、せっせとパリでの講義内容をまとめていた。
 城ノ内がアサミに仕事を頼む時は、机上の電話を使う。しかし、めったにベルが鳴ることはなかった。
 1日全く会わないこともあった。
 それどころか、城ノ内が出勤しているのかも分からない日が続くこともあった。
 そんなことは、今までは何とも思わなかったことだ。
 しかし、今は違う。落ち着かない。
 ただ、ケイタイに城ノ内の番号が入っていることが、アサミには何よりの慰みだった。
 ケイタイのボタンさえ押せば、城ノ内に繋がるのだと思うことが、心の支えになっていた。
 とはいえ、アサミからボタンを押すことはなかった。というより出来なかった。暑い夏休み期間の毎日を、狭い助手室でアサミは悶々として過ごしていた。bP5へ
(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)
posted by hidamari at 22:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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