2011年01月04日

ミニミニ小説・牡丹

bP7
 アサミがラウンジに着いたのは、6時を少し回っていた。
 普通、デートの待ち合わせでは、男性が待つものだという既成概念を持っていたアサミだったが、城ノ内を待たせる訳にはいかなかった。
 30分待つつもりだったが、城ノ内は6時15分頃現れた。
 アサミは早く来ていてよかったと思った。
 「あれ、待たせちゃった」と、軽く右手を上げながら、「じゃあ行こう」と、言うと、城ノ内はレストランの中へどんどん入っていった。
 アサミは、地に足がつかないフワフワした身体の危うさを感じながら付いていった。
 ディナーのコース料理を、城ノ内は美味しそうに頬ばった。
 それに比べアサミは、大好きなビフテキさえ、砂をかむようだった。
 胸がいっぱいで、味わえる心の余裕がなかった。
 城ノ内は、パリ美術大学で教鞭を取っていた頃の話をした。
 アサミは、なんとか相槌は打っていたが、頭の中は上の空だった。
 デザートに何が出たかも意識がないまま、最後のコーヒーが目の前にあった。
 これで今日のデートは終わってしまうのだ。
次回があるのだろうかいう思いが、ふっとアサミの頭の中をよぎった。
「俺ばかり話しているけど退屈だろう?」
「と、とんでもありません。面白いです」
「なら、いいけど。…実は、このホテルの客室を予約入れているんだけど、よかったらそこへ場所替えない?」
 アサミは一瞬耳を疑った。
 こんなに大胆なことを、こんなにすんなりと言われることに、アサミは慣れていなかった。
 というより初めての経験だった。
 少しでも想定していたら、こんなことにはならなかっただろう、とアサミは後日思ったことだった。bP8へ
  (カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 21:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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