知らず知らずのうちにウキウキしている緑子は、脇目もふらず帰宅している自分に、「いったい何を期待しているのだろう」と、いささか恥ずかしさを感じていた。
しかし、譲治君に会いたいという気持ちは抑えられなかった。
帰ってすぐキナコを散歩に連れていけば、譲治君に会えるかもしれないのだ。ただ会ってみたかった。後のことは何も考えていなかった。
「ただいま」といつものように玄関を入ると、いつもと様子が違う。居間の方から話声が聞こえてきた。
見慣れない男物の靴がある。こんな時間に来客なんて珍しかった。
まさかという気持ちで居間へ入った。
そこには、まさかの譲治君が因縁の父親と談笑している姿があった。
その父親がにこやかな顔で言った。
「緑子、譲治君がお祖母さんの13回忌法要で帰省しているそうだ。それで家にも挨拶にきてくれたんだよ」
「久しぶりです。こんにちは」と、譲治君は笑顔だったが、何の感慨もなさそうに言った。
「こんにちは、お久しぶりです」と、緑子も丁寧に頭を下げた。
こんな場面は想像していなかった。
「私、キナコを散歩に連れていくから」と父親に言って、緑子は逃げるようにその場を去った。
譲治君はすっかり大人になって、りっぱになっていた。それに前より男前にもなっていた。
確かに譲治君には違いないのだが、20年前の彼とは全く別人だった。bSへ
(カテゴリー夢小説で連載)
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