2011年02月17日

ミニミニ小説・牡丹

bQ1
 判定は陽性だった。
 目の前が真っ暗になった。へなへなと腰から力が抜け、便座から立ち上がることが出来なかった。
 大学からの帰路、薬局へ寄り、自宅のトイレに入って、どれくらい時間が経ったのだろうか。
 突然、「これは天からの贈り物だ」、という考えが稲妻のようにアサミの頭におりてきたのである。
 34歳という年齢は、子供を授かるには後がないかもしれないのだ。たとえ夫と呼ぶべき人が居なくても、自分の分身がいてくれたら、この先どんなに心強いだろう。それに愛している城ノ内との間に出来た子供なら、それこそ願ってもないこと。そんな風に考えると産むしかないと思えるのだった。
 しかし、現実を考えると、今の勤めを辞めてしまうと生活は出来ないのだ。まして子供を育てるなんて出来るはずはない。
 たとえ、妊娠を隠し、働き続けても、時がくるとお腹が出てくる。やがて出産となると、産前産後、育児休暇を取らなければならない。未婚の女性にその権利があるのだろうか。
 かといって、彼の子供ということは絶対明かされない。城ノ内には迷惑をかけられない。
 1番いいのは今誰かと結婚することだ。しかし、当然そんな男もいなかった。
 アサミには相談出来る友人もいなかった。唯一出来るとすれば母親のミナだったが、どんなに悲しむかと思えば、なかなか切りだす勇気も出てこない。ただシングルマザーになるのなら、ミナの援助がなければ、どうすることも出来ないことだった。
 アサミは毎日考え続けた。
 産婦人科へは、産むか産まないかを決めてから行こうと思った。bQ2へ
(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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