2011年03月04日

ミニミニ小説・牡丹

bQ3
 その日は城ノ内の1時限の講義に、助手としてアサミも駆り出された。
 1コマの講義が終ったのが10時30分、次の講義は午後からだった。
 城ノ内はその間自分の教授室にいるはずだ。アサミは意を決した。
 何度も練習したセリフを頭の中で繰り返しながら、ドアをノックした。
 「どうぞ」と言う声がさわやかだったので、アサミは少しホッとした。うまく喋れそうな気がした。
 「失礼します」と、きっちりと頭を下げて中へ入った。
 アサミを見た城ノ内は、一瞬きょとんとした顔をした。
 「ああー、君。何かあったの?」と、けげんな顔をしたものの、声はとても穏やかだった。
 久しぶりに相対した城ノ内は、アサミの悩みを知るはずもなく、あくまでもクールで優しかった。が、もう彼には何の執着もなかった。
 「今ちょっといいでしょうか」
 「いいよ、どうぞ座って」と言いながら、応接テーブルのソファーに、自らもデスクから移ってきた。
アサミは「失礼します」と言って、城ノ内とテーブルを挟んで対面した。
 「それで…」
 「ハイ、…実は、先生にご報告とお願いに参りました」
 「結婚でもするの?」
 「ええ、まあ、いえ、」「え!本当なの?」
 「違うんです。実はこの秋に中学の同窓会があったんです。…それに何年ぶりかで出席したんですけど。…そしたら、殆どの人がもう結婚していて、子供もいて、私何だか話が合わなくて…それで偶然私の隣の席の男の子が独身だったんです。だから独身は彼と私ぐらいで…、いえ、他にもいたかもしれませんが、もうそんなことどうでもよくなって、彼と意気投合したというか」
 「それ何月のこと?」
 何を言いたいのだろう、というような顔をして聞いていた城ノ内は、ポツリと質問した。
 意を察したアサミは「9月末です」と答えた。
 城ノ内は「そう」とだけ言った。bQ4へ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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