2011年04月03日

ミニミニ小説・牡丹

bQ5
 城ノ内に、妊娠のこと、シングルマザーになることを打ち明けたことで、アサミは8割方難関を突破したような気分がした。
 次は、母親のミナに話して、許しを請うことだった。
 ミナは、アサミがまだ子供の頃から、常に、結婚して孫を産んでくれることが最大の親孝行だからね、と言ってきかせていた。しかしそれも30歳を過ぎてからはぷっつりと言わなくなった。アサミに気を遣ってというより、半ば諦めていたのかもしれない。
 その娘がいきなりシングルマザーになるという。
 最初は驚き、お決まり通り「あなたをそんなふしだらな子供に育てたつもりはありません。絶対許さないから」と激怒した。
 それでも絶対産むという娘が、今度はしだいに不憫に思えてきた。
 「生まれた子供になんて説明するの?」
 「今はまだ何も考えていない。子供が大きくなったら本当のことを話そうと思う」
 「それで仕事は続けられるの?」
 「もちろん続けるつもり。そのうちに大学の教務課にも話す。担当の教授にはもう話した」
 なんとなくもう認めている口調になっていることに、ミナ自身戸惑っていた。
 いくら聞いても相手の男を明かさない娘の気持ちと、それでも産むという決心を、もう認めるしかないと思った。
 この先どんな困難が待ち受けているか分からないが、孫に会えるという喜びがないわけではなかったからだ。
 夫が亡くなってから娘を育てるのに必死だった。娘が結婚して幸せになってくれることだけを願っていた。それがこんな形になろうとは想定したこともなかった。
 でも、よく考えてみると、娘がそれで幸せなら、そんな生き方もあるのではと思えた。
 少なくとも世間体さえ気にしなければ、娘と孫と3人で暮らす生活は、ミナにとっては願ってもないような気がしてくるのだった。bQ6へ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)


posted by hidamari at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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