2011年04月15日

ミニミニ小説・牡丹

bQ6
 アサミが、産婦人科の門をくぐったのは11月も末になってからだった。
 自分で、おおよそ3ヵ月になっていると、見当がついていた。
 医者は50歳代の女性だった。アサミが今までかかったどの医者よりも親切で、しかも美人だった。 評判がいいのだろう、患者もかなり多かった。
 彼女は、アサミの事情を知っても態度を変えることなく、妊娠証明書を事務的に書いてくれた。出産予定日は来年6月10日だった。
 アサミは、翌日さっそく市役所へ行き、母子手帳の交付を受けた。
 これでいいのだ、と何度も自分に言い聞かせた。
 本来なら喜んでくれるパートナーがいて、2人でお腹の子供を守っていくはずなのに、自分で選んだこととはいえ、何もかも1人でしなければならないのだと思うと、後から後から涙が出て止まらなかった。
 その夜も、将来の自分と子供の寂しげな姿をむりやり空想して、泣いた。
 でも泣くのは今夜まで、これっきりにしよう、明日からは毎日毎日をただ明るく生きていこう。
 アサミはそう心に深く叩きこんだのである。bQ7へ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)


posted by hidamari at 22:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック