2011年04月21日

ミニミニ小説・牡丹

bQ7
 それからというもの、アサミはただ前だけを見て生活した。
 12月になって妊娠4カ月になっても、アサミのお腹は目立つことはなかった。
 城ノ内以外、アサミの妊娠を知る人はいなかった。
 元々痩せ気味のアサミの身体だが、今流行りのフワッとした長めのチュニックブラウスを着れば全く普通と変わらなかった。
 34歳という年齢にも関わらず、体調は比較的快調だった。胎児も順調に育っていた。1ヵ月に1回行く検診も土曜日の午前中に充てたので、全く仕事にも影響を与えなかった。
 毎日、元気に努めて明るく人に接した。すると、不思議なことに、同僚や周りの先生たちから「最近、楽しそうだね」とか、「最近きれいになったね、恋人でも出来た?」とか、かつてないほど気軽に話しかけられるようになったのである。
 自分でも性格が変わっていくのを感じていた。明るくなれば、人も自然に寄ってくることが今になって初めてわかった。もっと早く気付いていれば、こんなことにならずに、普通の幸せな結婚が出来ていたかもしれないと、ふと思ったりする。
 そう思うのは、城ノ内の研究室をちょくちょく訪れる若い外来講師渋井の存在のせいでもある。考えてみれば、彼とは何回も会っているのに、今まではただ会釈するだけだった。
 それが、会釈する時、ただ目を見て笑顔を添えるようになっただけなのに、彼の方からアサミに寄ってきて話しかけるようになったのである。
 それ以外にもあらゆる人たちと気軽に会話が楽しめるようになった。
 目の前が開けた感覚だった。
 毎日、そんな職場の一瞬一瞬が楽しかった。bQ8へ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 23:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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