2011年05月03日

ミニミニ小説・牡丹

bQ9
 12月は飲み会が多かった。
 もともとお酒がそれほど飲めるわけではなかったアサミは、飲み会の席では誰からも無理強いされることもなかった。忘年会もクリスマスパーティーも例年と変わりなく出席した。城ノ内と一緒になることもあったが、城ノ内からも何の気遣いも受けなかった。アサミはそれがとても有難かった。
 お正月が明けてすぐ、アサミは思い切って教務課に出向いた。
 課長の織田はアサミの姿を見ると、アサミの言葉を待たずに隣の会議室に招き入れた。
 「やっと来ましたね。貴女の事情は城ノ内先生から伺っています。いつ来るか待っていました」
 そんなことはそぶりにも見せていなかった城ノ内が、内内に話していてくれたのだと思うと、その思わぬ優しさに、思わず熱いものがこみ上げてきた。
 「でも、当大学では初めてのケースなので戸惑いました。城ノ内先生と部長先生と相談した結果、産前産後休暇、育児休暇共に認めましょう、という結論に達しました。貴女は優秀な助手だという城ノ内先生の強い進言がありました。貴女の生き方を尊重しようということになったのです。ただ、あなたへの世間の風当たりはまだまだ強いですよ。本当に大丈夫なのですか?」
と、織田は穏やかな口調だったが、どこか困惑気に言った。
 「大丈夫です。ご迷惑かけてすみません。母が全面的に援助してくれると言っています。休暇に入るまではしっかり仕事頑張ります。復帰してからは、仕事中心で頑張ります。よろしくお願いします」
 アサミは、恥を捨てていた。厚かましいことと知りながら、当たり前のことのように淡々と話した。
 城ノ内がどんな風に話したかは定かではないが、シングルマザーになるいきさつは何も聞かれなかった。
 城ノ内の優しさと思いやりに、アサミは、絶対城ノ内には迷惑はかけられないと、改めて思ったのだった。bR0へ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 21:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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