2011年06月19日

ミニミニ小説・牡丹 bR1

 アサミのお腹はまだそれほど目立っている訳ではないが、歩くとのけ反ったかっこうになり、それがいばっているように見えた。
 それがどうしても気になり、アサミは研究室からなるだけ出ないようにした。
 ただ、暮の大掃除には、誰よりも身体を動かして働いた。それなのに、そこにいる誰も彼女を労わってくれなかった。
 当然のことと分かっていたし、何も辛くはないのに、なぜか涙が出てくるのが不思議だった。
 暖房が効きすぎているみたい、と一人言を呟きながら、汗を拭くふりをして涙を拭いた。
 妊娠中ほど、精神の安定が必要と本に書いてあった。
 それに妊娠中は女の一生で1番幸せな時期だとも。
 アサミは今精神が不安定だと自覚していた。
 とはいっても、確かに赤ちゃんに会える喜びはあった。でもそれが一生の内で1番幸せだとは思えなかった。
 季節が暗い冬に移っていくことも、アサミの気持ちをますます心細くしていた。
 やがて大学も冬休みに入り、針のむしろのようだった職場からひとまず解放されたのであった。bR2へ
(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 20:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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