2011年06月25日

ミニミニ小説・牡丹 bR4

 アサミがかかっている産婦人科の入院病棟は、およそ病院らしからぬモダンな作りだった。
 新築なこともあって内装がとても明るく綺麗だった。廊下の至るところに飾り棚があって、緑の葉物の鉢や生け花が飾ってあったり、壁には院長の趣味なのか、かわいい西洋の子供を描いた油絵が、ハガキ2枚くらいの小さな額縁だが、数枚飾ってあったりして、どこかお金持ちの邸宅のような錯覚に陥るほどだった。
 その廊下の突き当たりの部屋にアサミは案内された。
 入口の表札には、既に3名の名前が書いてあった。看護師は手際よく1枚の板にアサミの名前を書いた。
 入院までは考えていなかったアサミだったが、医者に「切迫早産です。入院して安静を保つ必要があります」と、即入院を申し渡されたのであった。入院の手続きは1人で出来たものの、日用品や着替えを持ってきてもらうために、ミナに電話を入れた。おっつけ駆けつけてくれることになった。考えてみると入院体験は初めてのことだった。
 ほんとうにミナがいて良かったと思った。
 とはいえ、入院といっても手術とかいうのではない。どこか気楽だった。下腹がはったり、足がつったり、ムカムカする症状はあったが、それは今までにも頻繁にあったことなので、慣れっこだった。それをこれからは誰に気兼ねもなく、ゆっくり寝て暮らせるのかと返って嬉しかった。
 夕方、両手に大きな袋を提げたミナが、息を切らしながら病室へやってきた。
 「昼間に大学に電話を入れておいたよ。産前休暇を1週間前倒しするように訂正するから、仕事のことは心配しないでゆっくり療養しなさい、だって。よかったね」と、まるでアサミの心配を読み解くように言った。
 何から何まで気の付く母親だった。bR5へ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 21:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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