2011年07月26日

ミニミニ小説・牡丹 bR7

 アサミはパニックになった。ただごとではない。誰かを呼ばなければと呼びボタンを押そうとするが、手が動かない。「助けて」と叫ぶが声が出ない。
 「しー!静かに!俺だよ、城ノ内」と、その男性が低い声で言った。
 アサミにはとても信じられなかった。
 「何で先生がここに?」
 顔を見たいが、暗くて見えない。
 灯りを点けようとするが、手が動かない。
 「心配しないで!お見舞いに来たんだよ」と言いながら、城ノ内はずかずかとベッドに上がってきた。暗闇の中で素早くアサミの身体に覆いかぶさり、両手を頭の横に立て、腕立て伏せをするようにキスをした。
 何が何だか分からぬまま、アサミは、なされるがままにするしかなかった。そのうちに城ノ内はアサミの身体の上に、自分の上体を預けた。
 「赤ちゃんが潰れる」と思ったが、意外に苦しいこともなく、むしろ心地良いのが不思議だった。身体の芯がじわじわと熱くなっていった。抑えきれず自分から城ノ内の身体を引き寄せた。身体が喜びに震えるのを感じた。
 「お腹の赤ちゃんは僕の子供だろう。ちゃんと分かっているんだよ」と、耳元で優しく城ノ内が言った。
 「いいえ、違います」アサミはきっぱり否定した。
 「いいんだよ、何も言わなくても。ただ、もし女の子だったら、「牡丹」て命名してね。珍しい名前だから、後年逢うことがあったらすぐ分かるように」城ノ内は、さらりとそう言った。bR8へ

(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 21:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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