2011年08月11日

読後感(寒灯)

 西村賢太著 2011年6月 新潮社発行
 著者は「荷役列車」で今年芥川賞をとった時の人である。
 その時、同時にこの賞を取った朝吹真理子さんのセレブで上品な人間性とは対照的な存在で、あまりにも稀有でその悲惨な生活環境には同情する余地もなく、とうていその人が書いた私小説等読む気がしなかった。
 朝吹さんの「きことわ」は、想像以上におもしろかったことは、このブログに書いた覚えがある。
 さて、私がこの本を読む気になったのは、新聞の書評欄を読んだからである。1口でいうとたいそう褒めてあったのだ。
 それ程いうのならと、さっそく図書館から借りてきた次第である。

 彼の父親の話しや、彼の女性に対するその幼稚な扱いは、ほんとうにひどいもので、ヘドが出そうなものだった。彼はその自分の汚れた経歴や、ひねくれた性格を知りながら、それらのことを赤裸々に客観的に描いている。普通は、自分に対して少しは甘くなり、情にすがるような表現もあってしかるべきところ、それがいっさいないのが潔い。
 この本は、全く物語性はないので、内容に感動するところはない。私がおもしろいと思ったのは、主人公、貫多のセリフの言い回しが、今の時代背景なのに、浪花節調なのが何とも軽快だったこと。それに全体を通して、明治時代の文豪を思わせる筆の運びは、内容にそぐわず、ジメジメしたところが消えて、純文学の気風さえ漂わせる。
 著者は大正時代の私小説家、藤澤清造に傾倒しているようなので、この人の作風を真似しているのではないかと思うのだが、藤澤の本を読んだことがないから定かではない。
 とうてい好きになれる作家ではないが、彼女である秋恵の父親が300万円をポンと貸してくれている所をみると、やはりこの貫多は、どこか見どころがある人だったのではないか、と思った次第である。

 これを読んだ、世のダメ男が、「自分はこの男よりまだましだ」と思うなかれ。
 誰が貴方に、300万円ものお金を貸してくれますか。
 それに、彼はちゃんと芥川賞を取るほどのりっぱな小説家に出世しているではないか。
 …まあ、こんなこと、あんなことを考えさせられた本だったのである。

posted by hidamari at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 読後感・映画の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック