2011年10月21日

ミニミニ小説・ステテコ bR

 「えっ山田君?私小田です」
 「あ、小田先輩の奥さんですか?」
 「あのー、福岡からは夫と一緒に帰って来られたんですか?」
 山田君はちょっと戸惑っていた様子だったが、
 「えっ? あのー、先輩とは昨日博多で別れましたが…。 何か、親戚の家へ行くと言っておられましたが…」
 「じゃあ出張は昨日までで?」
 「はい、先輩は1日休暇を取られまして…」
 「そうだったんですか。分かりました。親戚の家へ連絡してみます。この雨で、まだ帰ってこないので… すみませんでした」
 「ご心配ですね」
 山田君は、何かを感じたのか、申し訳なさそうにそう言った。
 みどりも、妻である自分が何も聞かされていないことを山田君に知られたことに、言い知れぬ屈辱感を感じていた。
 勇太郎は何かを隠している、とみどりは悟った。
 確かに福岡に親戚が居ることはいる。が、そんなに親しく行き来している訳ではない。用もないのに休暇まで取って、訪ねたり、ましてや泊まったりするはずがなかった。
 この豪雨の中、危険な目にあっているのではという当初の心配は吹っ飛んだ。それより、いったい今どこで何をしているのだろうかという、得体の知れない不安がモクモクと湧きあがってきた。その胸のイライラを抑えることが出来なかった。
 2人の娘が「ママ、パパは今何処にいるの?」と、無邪気に聞いてきた。
 みどりは優しく返事が出来る気持ちではなかった。
 「電気が消えないうちにシャワーを浴びて早く寝なさい」
 と、怒鳴りつけていた。
 さっきから点いたり消えたりしていた電気がついに停電になった。
 外は狂ったように豪雨が降り続いていた。
 こんなにひどい雨なのに、連絡をしてこない勇太郎。家族のことが気にならないのだろうか。
 勇太郎が今置かれている状況を、いろいろ推し量ってみたが、みどりには一向に思い当たることがなかったのである。bSへ
 
(カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載)

posted by hidamari at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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