2011年11月21日

ミニミニ小説・ステテコbT

bT
 「突然すいません。決してあやしいものではありません」
 それは男性の声だった。
 抵抗する暇はなかった。あれっという間に男はドアをこじ開けて中に入ってきた。
 「実はもう1人連れがいるんです。ここへ呼びます」
 男性はみどりの返事を待たずに、ドアから顔を出して「おーい」と呼んだ。
 すると、どこからともなくすっと黒い人影が現れた。女性だった。
 人の会話を聞きつけたユリが、大きな懐中電灯を持って玄関へ出てきて2人を照らした。
 男性は、60歳前後の公務員か教師ではないかと思える風貌の、実直そうな紳士に見えた。
 女性は、50歳前後で、専業主婦というのではなく、勤め人、それも事務系の仕事をしている人のように見えた。
 みどりは、危険な人たちではないと思い、いくらかホッとした。
 「この先の国道で崖崩れがありまして、走行していた車が動かせなくなりました。乗り捨ててやっとここまで歩いてきたのですが、もう身動きができません。避難するところも分かりません。それで今夜ここに泊めてはいただけないでしょうか。お願いします。どの家も戸締りがきつく、開けてもらえなくて」
 男性は、この家に入れてもう安心だという風に、女に「良かったね」と、言った。
 承諾したつもりはなかったが、この雨の中追い出すわけにもいかず、みどりは2人を家にあげた。
 下着までずぶ濡れになっていた2人は、着替えを貸してくれと言った。
 男性には、夫のものを一揃い用意した。
 男性は「ステテコも貸してください」と、言った。
 男性は、濡れたものをハンガーに丁寧にかけて干した。
 とても几帳面だった。
 それに引き比べ、女性は、バスタオルで拭いただけで、自然乾燥に任せる風だった。
 男性は、少し落ち着いたのか、みどりに名刺を差し出した。
 市の図書館長という肩書があった。
 しかし、女性のことは何も紹介がない。
 奥さんと分かり切っていたが、「奥さんですか?」と、何気に確認した。
 「いえ、知り合い…、いえ、親戚なんです」と、男性がしどろもどろに返答した。
 ろうそくの灯りだったが、侵入者2人の気まずい表情が取って見えた。
 ラジオからは、土砂崩れや鉄砲水の被害現場から助けを求める電話の声が、狂ったように聞こえていた。bUへ
 (カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載

posted by hidamari at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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