2012年02月27日

ミニミニ小説・ステテコ bW

 不可解な侵入者2人が帰った日の夕方、夫勇太郎は影のように音もなくスーとマンションの玄関に現れた。
 みどりはその姿を見て思わず抱きついた。自分でも思いがけない、素直な気持ちの表れだった。
 「無事でよかった、いったいどこにいたの?」
 でも、勇太郎は何か変だった。それは玄関に入って来た時から感じていた。嬉しくて抱きついてしまったみどりを「うん、ちょっと」とだけ言って、無意識に突き放したのだ。
 えー、突き放すの?とみどりは、その反射的な夫の態度に、少なからず傷ついた。
 何もかも変った町の様子も、昨夜の豪雨のことも、勇太郎は口にしなかった。まるで感情を失った記憶喪失者のようだった。
 「うん、ちょっとは、ないでしょう。私がどれだけ心配したか、なんで連絡もしないの?」
 勇太郎のそっけない態度に、みどりは改めて腹が立ってきた。
 その日は土曜日だった。
 「俺、ずっと歩いてきたから、すごく疲れている。寝る。やることがあったら明日やる」
 そう言うと勇太郎は寝室へ逃げるように入りこんだ。
 その日から、勇太郎はすっかり別人だった。
 妻のみどりに対してだけではなく、娘たちユリとミキに対しても、まともに感情を表すことはなく、まるで他人のように接した。
 勇太郎の中に何かが起きていることは分かったが、いったいそれが何で、何の理由でそうなっているのかが分からなかった。
 不安で、気持ちばかりが高ぶった。それを抑えることが出来ず、ただヒステリックに勇太郎を責めた。
 そして家事を見つけては言いつけた。
 勇太郎は、みどりに言われるままに、給水車へ水をもらいに行ったり、買物へ行ったりした。
 しかし、出張の日程のことや豪雨の夜のことを、どんなに聞いてもまともな回答をすることはなかった。
 翌日曜日も、みどりは勇太郎を責め続けた。
 勇太郎は「別に何もない」と、答えにならない返事をするばかりだった。bXへ
 (カテゴリー〈短編小説・つぶらなひとみ〉に連載

posted by hidamari at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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