2015年06月23日

読後感“それを愛とは呼ばず”

 桜木紫乃著  2015年 幻冬舎
 
 著者は1965年生まれ、2013年に「ホテルローヤル」で直木賞をとっている女性作家。 
 私は話題になった「ホテルローヤル」を読んだ。それは短編集で、主人公が何人もいた。
 今回の「それを愛とは呼ばず」は、主人公は、亮介54歳と紗希29歳の2人。
 2人が、交互に主人公の立場となって、2人の物語が展開される。
 1章は亮介の生活から始まる。亮介の妻は、10歳年上の女性経営者、つまり彼の雇い主である。結婚生活10年になるが、妻をサポートして幸せな生活を送っていた。
 そんな時、妻が事故で昏睡状態に陥り再起不能となる。
 そこから始まる物語は後継者争いの形相が…。
 で、その文章にあまり惹きつけられず、わたしの癖で最後の章を読むことに…。
 何と、亮介は紗希なる若い女性に殺害されていたではないか。
 そこは取調室で、検察官が紗希に尋問している場面だった。
 私の読み方は、刑事コロンボパターンで、まず犯人ありき、徐々に殺害に至るまでの経緯を明かしていくという方法である。
 他人には勧めないが、早く読み終えるには、手っ取り早い方法だと思っている。
 
 私の感想だが、まず一貫して暗くて重い、退廃的な物語だったこと。
 次に、人生は生まれながらにして幸不幸が決まっているのか?という疑問。
 とはいえ、実はどんな幸福だった人でも、死ぬ時は、不幸のどん底ではないかということ。
 主人公紗希は、自分を含めて周りに不幸な人ばかりを見ていた。人間関係においても、仕事においても、家族においても、未来に何の希望も見いだせないで、ただ惰性で生きていくだけの人を見て、何とか力になりたいと願っていた。
 そして、彼女は自分の妄想と思い込みで大きな間違いを犯してしまう。しかし、彼女はそれを罪とは決して思っていない。なぜならそれを愛と思っているから。
 彼女が犯した罪とは、不幸だった人たちが、ちょっとでも幸せを感じている時、彼らにそれ以上の幸せがこの世にはもう存在しないことが分かっているから、今幸せを感じている間に、あの世に送ることだった。
 彼女には彼らを殺害する動機はないが、愛という理由はあったのだ。それはもはや狂気以外なにものでもない。
 しかし、彼女が最後に殺害した亮介は、まだまともだったはず。将来また幸せが訪れたかもしれない。なのに彼女はなぜ、彼まで殺害したか。それは、彼が言ったひとことだったのでは。
「あなたにだけ出来る仕事があるはず」
 彼女はこの仕事を「不幸な人が少しでも幸せを感じている間にあの世に送ること」と、都合のいいように解釈したのだろう。
 で、亮介は、今召されるのが1番幸福と思ったのではないか。
 で、愛を持って殺害したのだと信じ込んだ。
 不幸な人生を送った人は、せめて最期くらい幸せでなければ、この世の中不公平だと…。
 私、少し分かるところがあるかも。
 検察官が最後に言い放ったことばが、
 「それを愛とは呼ばず」…… これがタイトルです。
posted by hidamari at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 読後感・映画の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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