2007年10月10日

小説・私に年賀状などよこさないで

148
 年月は容赦なく過ぎ去り、貴志が姿をくらましてから早くも2年が経っていた。
 父息子、2人だけの家族なのに、その父親にさえ貴志は連絡を絶っていた。
 貴志は既に死んでしまったという噂を、美和は風の便りで聞いた。
 一方、多田紀代子は、ごく普通の結婚をして、今も悠々と県庁で働いている。
 美和には、美人でもなく愛嬌もない紀代子が、容易に次から次へと男性を捕まえることが出来るのが、とても不思議だった。
 本庁に戻った達郎は、要職につき、いきいきと仕事に励んでいる。長男伊知郎は一浪のあと東京の私大に入った。二男治郎は受験を控えている中3。
 美和は時々貴志のことを思い出す。その度に、胸の奥に抜けきらないで留まっているトゲが、再びちくちくと暴れ出すのである。
 結局、貴志は持って生まれたやわな性格だったのかもしれない。
 それにしても、もし、あの時、貴志からのあの年賀状が来なかったら。
 もし、貴志がその年賀状に、彼女が出来たと嬉しそうに書いていなかったなら。
 もし、彼が私に、年賀状などよこしていなかったら…。
                                        完

(上記小説〔私に年賀状などよこさないで〕は今回をもって完了しました)

2007年10月08日

小説・私に年賀状などよこさないで

147
 そんな時、職場で貴志と仲のよかった、独身寮でも同じだった、同僚の大沢という若い男性職員が、
 「有吉さん知っていますか?大橋が退職したこと」
と、言った。
 美和は、『えっ嘘でしょう?』と思ったものの、一方では、
 『あいたたあー、こんなことになったか』という思いが走った。それでも、平静を装い、
 「知らない。どうしてなの?」と、言った。
 「それが、不思議なんですよ、お正月明けから職場に出ていないみたいで、行方不明状態なんだそうですよ。それが、最近になって所属長宛に退職願いが郵送されてきたんですって。それが受理されたのですよ。なにしろ欠勤しているわけですから」
 「消印はどこだったのだろう?」
 「何か…それは航空便で、インドだったとか」
 美和は、胸の奥がキリキリと痛むのを感じていた。それは、胸に両手を当て強く押さないと、治まらない程だった。
 何で、あんな女のために貴志が苦しまなければいけないのだろう。
 「大沢さん、原因は知らないの?仕事で何か悩んでいたとか」
 「いや、僕は別に…、彼とは転勤以来連絡はとってないです。噂では、同じ課の女性と付き合っていたそうで、…むしろ幸せだったのではと…。その女性も唖然としているらしいです。彼女は結婚も考えていたそうで、…必死で大橋を探したらしいですけどね、インドではねえ。…だから不思議がられているんです」
 ショックだった。
 貴志はいったい何をどういうふうに結論付けたのだろう。
 彼女のことをそんなに好きならば、彼女の過去を許せばいいではないか。
 許せないなら、彼女と別れれば済むことだ。
 何もかも捨てて、その場から逃げてしまう心情は、いったい何なのだろうか。
 貴志にとって、始めての恋だった。その恋があまりに一途で真面目過ぎたのか。彼女の実像を知って絶望してしまったのか。
 美和は、憤まんやるかたなかった。
 せめて、美和の知らない理由がまだ他にあったのだ、と思いたかった。148へ

(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)

2007年10月06日

小説・私に年賀状などよこさないで

146
 美和にとって、貴志と紀代子の行く末など、どうでもよいことだった。都合のいいことに、八幡と熊本市は、80キロは離れている。ので、顔を合わせることはもちろん、噂話も流れてはこないのだ。
 年賀状さえ来なければ、紀代子が恋人だと書いてさえなかったら、彼らがどうなろうと、知らないままで過ごせたのだ。何も貴志に、夫と紀代子の不倫話など、自らすることもなかったのだ。年賀状を交換するシステムさえなかったら。美和はそれだけがいつまでも胸につかえていた。それは、時々トゲになって美和の胸の奥をチクチクと刺した。
 八幡に来て既に5年が過ぎようとしていた。
 その年は、当然、貴志からの年賀状は届かなかった。分かっていたが、美和は改めてほっとするのだった。もうこりごりだったのだ。
 しかし、どこかで、あの2人はあれからどうしたのだろう、結婚したのだろうか、と気になるのも事実だった。
 この4月には、達郎夫婦は共に転勤することになるだろう。もちろん熊本市内に帰ることを希望していた。
 伊知郎は大学受験、治郎は小学校を卒業する。
 2人の子供たちは、何とか順調に育っていた。
 達郎も徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
 美和は、熊本に帰っても、自分たち家族は、もう大丈夫だと思っていた。147へ

 
(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)

2007年10月02日

小説・私に年賀状などよこさないで

145
 「じゃあ、彼女が有吉さんの旦那さんと不倫していたということは、事実なのですね」
 「申し訳ないけど、本当よ」
 「…そういえば、彼女、有吉さん夫婦のことをよく話題にします」
 「何て?」
 「いえ、夫婦仲はいいのか、とか…、奥さんはどんな人か、とか、僕によく聞きます」
 「そう。でもね、彼女、何も夫だけじゃないのよ、その前にも彼氏はいたらしいから、夫は単に通過点。貴方が最終地なのかもしれないよ。離婚歴のある人と幸せな結婚をする人も一杯いるんですもの。そう考えればいいのよ。貴方は幸せになって欲しい」
 「…そんなこと、…僕には分かりません」
 貴志は力なく応えた。最初のハイテンションとはうって変わった沈みきった声だった。
 彼には想像もつかない世界の話だったに違いなかった。
 貴志の受けたショックの大きさが、落胆した声を聞くだけでも、痛いほどよく伝わってきた。
 それでも、紀代子に対しては『ほら、自分を大切にしないと、本当に訪れた幸せが、逃げていくでしょう』と言ってやりたかった。
 美和は、その幸せを自分が、壊しているとは思わなかった。全て、紀代子自身が蒔いた種だと思った。
 「夫のこと、彼女から言い出さない限り、黙っていてね。私と彼女の母親の間には誓約書があって、2度と両家は関わり合わない、ということになっているの。私が貴方に告げ口したと分かれば、彼女の母親が黙ってはいないと思うの。もし、どうしても彼女に問いただしたいなら、第三者から聞いたことにしてね。ごめんね。大変なこと、貴方にばらしちゃったのに、勝手なこと頼んで」
 「いえ、いいです。事実ですから仕方ないです。有吉さんから聞いたとは言いません」
 長い、終始、沈痛な感じの電話は終った。
 貴志が、このまま紀代子と結婚するとしても、きっと2人はうまくいかないだろう、と美和はなぜか、確信した。
 しかしこれで、貴志の心の中に、美和が、とてつもなく厭味な女として、永遠に刻み込まれることは、避けられないだろうことも自覚するのだった。146へ

(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)

2007年09月30日

小説・私に年賀状などよこさないで

144
 「明けましておめでとうございます。お正月休みに突然電話してごめんね」と、美和は直に言った。
 年賀状をもらって急に貴方と話しがしたくなったのよ、と軽いのりで話そうかとも考えたが、やはりそれは考え直した。
 深刻な話しが茶化されて取られかねないと思ったのだ。
 「年賀状ありがとう。返事書こうと思ったんだけど、ちょっと貴方に聞きたいことがあったんで電話したの」
 「返事なんかいいですよ、でも聞きたいことって…」
 「うん、彼女出来たんですって?多田さん…」
 「えっ?そこに食いつくんですか?」
 と、言いながらも、貴志は、やけに嬉しそうだった。
 「貴方、彼女と結婚とか考えているの?」
 「ええーっ?…出来ればいいですけど、…まだ具体的には」
 「好きなのね」
 「ええー、彼女、とても良い人で、僕の人生、急に明るくなったんです」
 「そう、良かったねえ」
 「それが、何か…」
 「うん、今の若い人は、異性関係もいろいろあるから、多田さんの過去の男関係、どうってことないといえば、どうってことないんでしょうけど…、貴方も彼女の過去とか気にしないのでしょう?」
 「…どういうことですか? 僕は彼女の過去は何も聞いていません。それに僕は彼女が始めての女性です」
 達郎の声は、いくぶん憤慨していた。動揺しているのが美和に伝わってきた。
 「私も、こんなことわざわざ貴方に言う必要ないのだけど、その相手の1人に私の夫が入っているから。こんな私の恥、出来れば秘密にしておきたいよ。でもまだ最近のことなのよ。だから、逆に彼女が貴方とちゃんと結婚してくれれば私の方は、返って安心なんだけど…、手離しで喜んでいる貴方が、何だかかわいそうで…。
 貴方が何もかも知った上なら、私は何も思わないですむでしょう?」
 「有吉さんの旦那さんと多田さんが付き合っていたということですか?」
 貴志の声は沈んでいる。
 「そう、八幡に転勤するまで3年弱、こっちに来てからそれが分かって大変だったの。妊娠までしていて、赤ちゃんは堕ろしてもらったんだけどね。彼女、生きるの死ぬのって、大騒ぎして、結局、第三者に入ってもらって慰謝料を払って別れてもらったのよ。役所の人も知っている人は知っているのよ。知らないのが貴方だけっていうのが、ねー」
 美和は自分が何と残酷なことをしているのだろう、と空恐ろしかった。こんなことをすればきっと天罰が下るかもしれないと思った。それなのに、話を打ち切ることは出来なかった。
 それは、自分がハンドルをもって乗っている自転車が、このまま進めば危ないと思いつつ、そのまま危険物にぶつかっていくのに似ていた。145へ

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2007年09月28日

小説・私に年賀状などよこさないで

143
 大橋貴志に、多田紀代子の素性を知らせようと決めたものの、美和は、なかなか、電話をかけることが出来なかった。
 お正月3が日が済んでしまおうとしていた。
 貴志の携帯番号を知らない美和は、仕事が始まってしまったら、職場に電話することになる。同じ職場に紀代子がいるのだ。ますますかけにくくなるだろう。今日しかない、と思った。
 昼食後、達郎と子供たちはテレビを見ていた。
 美和は、電話をかけるために、わざわざ買物に出かけた。狭い家の中では、どこでかけても話し声は筒抜けになる。かといって、隠れてかけるのも、不自然だった。
 美和は、スーパーの駐車場に車を止め、車中で電話をかけようと思った。
 貴志の自宅の電話番号は、職場の住所録で分かっていた。
 貴志が今自宅にいるか、賭けだった。もしかしたら、お正月ではある、2人はデートしているかもしれないのだ。
 「ハイ、大橋です」
 当の本人だった。
 「あっ、ああ、もしもし、大橋さん?有吉です」
 美和は、簡単に貴志が電話に出たことに、返ってドギマギした。
 「ええー?、有吉さんですか、明けましておめでとうございます」
 美和からの電話に、一瞬、貴志のテンションは上がり、彼らしからぬ明るい声だった。が、かかるはずのない美和からの電話に、すぐにいぶかしげな様子をした。
 「何か…」144へ

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2007年09月26日

小説・私に年賀状などよこさないで

  ※
142
 夫婦の関係を完全に修復出来るとすれば、夫婦間に亀裂がおきていた間と同じ時間が必要だった。それが、5年間なら、5年間の時間がかかるということだった。
 少しずつ少しずつほころびを縫い合わせていくしかなかった。それで、元の信頼し合える夫婦に戻れるなら、美和は、あせらず気長にやっていくしかないと思っていた。
 それは3歩進み2歩下がるくらいの、のろい歩みではあったが、何とか前に進んでいた。美和はだんだんそれを実感していた。
 そんな時、美和の心に、こつ然と過去の醜聞が再現された。
 それは、一通の年賀状だった。
 美和は、大橋貴志からのその年賀状をポケットに入れて、その日1日中持ち歩いた。
 どうしたものかと考えたのだ。
 そして、たった1日で簡単に結論が出てしまった。
 当初からそうしようと決めていたようにも思える。他の道は考えられないのである。
 美和には、これが良いことか、悪いことか分からなかった。
 いや、少なくとも多田紀代子の幸せを願うなら、やってはいけないことに決っていた。
 それを選んだということは、多田紀代子の幸せなんか、美和は決して願っていなかったのである。彼女の中の悪魔が、ここぞとばかり頭を持ち出してきたのは、間違いない事実だった。143へ

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2007年09月23日

小説・私に年賀状などよこさないで

141
 「多田は愛人で、岡田はセックスフレンドだったというわけ?あなたもたいしたもんね。それを私に堂々と言うなんて、正気の沙汰ではないよ。そんなあなたの正妻が私なのね」
 そういいながら、美和は、こんな男と離婚出来ない自分は、同じ穴のムジナ、なのではなかろうか、と思った。ぞっとした。この先の人生が、我ながら惨めだった。
 「多田の母親が言ったすごいことって、きっとそのことだろう」
 「それ十分すごいでしょ」
 「何回も言うけど、もう終ったことだから」
 美和は、十分傷ついたが、望月ハナが言ったことばは、もっとすごいひびきがあった。その頃美和は、ハナから、まさかと思うことばかり聞かされていたので、小説の中のことのような、とんでもないことも思い浮かべたのだ。例えば、公金横領とか、覚せい剤とか、普通では考えられない突拍子なことだった。被害妄想に陥っていたのかもしれなかった。
 それゆえ、多田と同じような浮気話に、同じように傷ついたとはいえ、自分が妄想していたとんでもない話と違っていたことに、ほっとしていた。
 美和は、岡田のことは胸にまた1つしこりとして残るが、もうあまり詮索するまい、と思った。142へ

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2007年09月21日

小説・私に年賀状などよこさないで

140
 「彼女が言ったのは、もっとすごいことだから、って。もっとすごいことって何?外で子供を作った以上にすごいことって何なのよ。私恐くって今まで聞けなかったのよ。でも人から聞かされるよりあなたから聞いた方がいいよ」
 じっと考え込んでいた達郎は、
 「俺、心当たりないよ。何も心配いらない」と頼り気ない小さな声で応えた。
 「なら、仕方ないよ。彼女にまた電話して聞いてみる」
 「…ひょっとしたら、他の女のことかなあ」達郎は、平然と言ってのけた。
 美和は自分の耳を疑った。
 「えっ、嘘でしょう?他にも女いるっていうの?」
 「ただの火遊びだよ。前の前の職場での話を多田に話してしまったんだよ」
 「前の前の職場って、いったい、誰なのよ。私が知っている人?」
 「おまえは知らない方がいい」
 「何よ、偉そうに。多田には言って私になぜ言えないのよ。言いなさいよ」
 美和は、まくしたてながらも、こんな言い争いが情けなかった。
 それなのに、頭の中は過去に戻ってその頃のことを必死に思い出していた。思い当たることがたくさんあった。
 「飲み会の後に、ホテルに行ったんだよ。それがうまくいったから、多田の時に繋がったんだ。多田を安心させるために、前にもこんなことあったのにおまえにはばれなかった、って、言ったんだと思う」
 「そういえば、あの頃、あなたが忘年会で明け方帰った時、あなたの職場の栗林さんから電話もらったことある。有吉さんが今お尻の大きい女とホテルに入って行きましたって。栗林さん実況していた。酔っていたから、悪ふざけだろうって、相手にしなかったけど、本当だったのね。…相手誰なのよ」
 「岡田冴子…、お互い好奇心だけの付き合いだったから」
 「岡田って、50歳位じゃない?あんなおばさん、ご主人もいるのに、どういうつもりなの」
 「だから、岡田とは身体だけの付き合いだから」
 「転勤するまで続いていたわけ?」
 「そんなこともう忘れたよ、今は終っているからいいじゃないか」
 「ふうん、多田とは違うというわけね」
 「そうだ、多田はいっときは好きだったからね」141へ

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2007年09月19日

小説・私に年賀状などよこさないで

139
 「貴方にもう1つ聞きたいことがあるんだけど」
 美和は、応接台の湯呑み茶碗を片付けながら、努めて平静に言った。
 平静になることに気を使いすぎたのだろうか。
 達郎に話しかけながら、遠くからわざわざ来てくれた堀田に対して、どこかにひっかかっていたのだろう、お茶とお菓子では、あまりに愛想がなかったなあ、という思いが、ふっと頭をよぎった。
 「堀田さんに申し訳なかったね。お酒でも出せばよかったかしら」
 思わず、美和の口から出ていた。
 「おまえが呼んだのだろう。…でも、昼間だしいいんじゃないか?」
 「そうね、そのうち、私が何か贈り物をしとくわ」
 「好きなようにしろよ」
 「あっそうだ、そうじゃないの、あなたに聞きたいことは」
 「何だよ」
 「あなた、私にまだ隠し事していること、あるでしょう?」
 達郎の顔が、一瞬たじろいだ。
 が、すぐに何食わぬ顔に戻った。
 「隠し事って?」
 「あのね、多田さんの母親が、以前、私に言ったことがあるのよ」
 本当は多田とか、望月とかいう名前は2度と口にしたくなかった。
 しかもさん付けで呼ぶのも何かしら抵抗があった。そうかといって呼び捨てにするのも、しっくりこなかった。
 達郎の目が宙を泳いだ。
 過去のことを思い巡らしている風だった。
 「何と言ったんだ?」
 「達郎さんはまだまだ悪いこと、たくさんしているんですよ。奥さん何も知らないのでしょう。彼は、娘には何でも話しているんです。あなた知ったらびっくりするから。そう言ってたわ」
 「…心当たりないけど、…何のことか聞かなかったのか?」
 「それが、私がどんなに頼んでも教えてくれなかったの。自分で本人に聞きなって」
 「…何だろう。俺にも分からんよ」
 達郎は、今度は不安そうな顔を隠さなかった。140へ

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2007年09月17日

小説・私に年賀状などよこさないで

138
 人は長く付き合えば、その人の性格が分かってくるというものではない。
 むしろ、ますます理解し難くなることもあるのではなかろうか。
 美和は、達郎のことを、根っから明るい性格だと思い込んでいた。どんな些細なことでも、うるさいほどよく話してくれたし、仕事の悩みもよく打明けていた。それゆえ、隠しごとなんか絶対出来ない性格と思っていた。
 美和自身は、人に知られると恥ずかしいと思えば、人並みに隠し事もしたし、多少は見栄も張った。
 それに比べ、達郎は、見栄を張ることもなく、自分の恥も正々堂々と、平気で人前にさらした。
 美和にとっては、達郎は初めて見るタイプの人間だった。それは、カルチャーショックだった。そんな達郎が新鮮だったし、尊敬の念さえ抱いた。
 その達郎が、1番大事なところで、美和を欺き、信頼を裏切っていたのだ。
 達郎を見る目が変わったのは、当然だった。
 あれ、この人、いったいどういう人なんだろう?
 実は、ずる賢く、陰気な性格では、なかったのか。
 達郎の性格が今さら変わったのではない。
 美和の目に紗がかかっていて、事実を見極めることが出来なかっただけのことかもしれなかった。
 美和は、もはや達郎を明るい性格だとは、思っていない。
 ゆえに、今後はそれを認めて、それなりに、自分が身構えて付き合えばいいことだと、思うに至ったのである。

 達郎には、自分の恥を簡単に話す性格がある。
 ひょっとすると、今なら、何でも話すかもしれないと思った。
 堀田が帰ったあと、変な空気が達郎と美和の間に流れていた時、もう1つの心配事を、美和は思い切って切り出していた。
 この際、一気に攻めて、何もかも決着をつけたかったのである。139へ

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2007年09月15日

小説・私に年賀状などよこさないで

137
 その日、堀田が、美和だけにそっと言ったことがあった。
 達郎がお手洗いに立った時だった。
 「どうだろうね。多田を私の目の届く今のまま手許に置いておくか、それとも、有吉君と関係ない他の課に転出させるか、どっちが貴方はいいですか?」
 美和は、迷うことはなかった。
 「出来れば、夫が出張に行っても会うことがない他の課に行ってもらうのが」
 「なるほどね、彼女も開発課、長いから、4年目かな?今度異動の時期なんだよ、どうしたものかと思っていたんだ」
 「そうですか。よろしくお願いします」
 美和は、そう言ったものの、こんなことまで陰で画策している自分が返って卑しく見え、あまりいい気持ちではなかった。
 それに、こんなことをしても、携帯電話もある世の中、2人が会う気になれば、どんなことをしても会うだろうから。
 安心するとしたら達郎を信じるしかないことだった。
 美和は、よくよく分かっていたが、紀代子が達郎の目の前から取り敢えず遠のくことは、やはり、願ってもないことだったのである。138へ

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2007年09月13日

小説・私に年賀状などよこさないで

136
 人がいる飲食店や喫茶店で、込み入った話をするのはまずいだろうと、堀田は、八幡の駅から、かなり離れた所にある公舎に、わざわざ2人を訪ねてきてくれた。
 「何もかもびっくりしたよ。まあ、済んでしまったことは仕方ない。それとなく、職員に聞いたところ、知っている人も何人かいたよ」
 「はあ、まあ、最初はグループで飲みに行ってたりしてましたから、彼らはある程度は分かっていたと思います」
 達郎は、照れ隠しか、人事のように話した。
 「多田は私の部下だからね。彼女に、気分にむらがあるのは分かっていたよ。機嫌のいい時と悪い時がはっきりしているんだ。今でもそうだよ。性格だと思っていた。仕事は真面目にやっているが、ふっと休んだりするのがあるがね」
 堀田は、特に、美和に向かって紀代子の近況を話してくれている感じだった。それは、紀代子のことを、少しおとしめて話していることからも感じられたことだった。
 達郎は当事者である。普通なら居たたまれないはずなのに、意外と平気で、何もかも自分から、赤裸々にばらしていった。
 その無神経さ、鈍感さに、美和は、改めて、達郎の、いや男のいい加減さを見る思いがしていた。むしろ、その悪びれた様子がないのは、あっぱれであった。
 美和には真似出来ないことだった。
 「実は聞きにくいんですけど、彼女、妊娠しているという感じはありませんでしょうか?」
 美和が、1番気になっていることだった。
 「うん、貴方からそのことを聞いて、じっくりと観察したんだが、身体の変調もないみたいだし、高いところにも平気であがっているし、…妊娠しているとは考えられないよ」
 「そうですか。それならよかったです。いろいろあったんですが、そのことが確認出来なくて、1番心配だったんです」
 美和は、堀田のそのことばを聞いてやっと心底ホッとした。
 達郎が、堀田に向かって
 「いろいろ、ご迷惑かけてすみません」と、言ってペコンと頭を下げた。137へ

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2007年09月11日

小説・私に年賀状などよこさないで

135
 美和はとうとう勇気をふるって堀田に電話をした。
 それは、清水の舞台から飛び下りる心境だった。
 堀田は、達郎と多田紀代子が不倫関係にあったことを、にわかに信じがたかったようで、
 「そんなことないと思うよ、だって多田紀代子はそんな女性じゃないよ。こういっては悪いが器量だってよくないし、違う意味で目立っているんだ。異常に大きい女なんだ。有吉君が相手するとは考えられないよ。そうか、奥さんも彼女知っているよね。きっと奥さんの邪推だよ、心配には及ばないと思うよ」
 と、全く信じる様子はない。
 これは事実だ。既に、双方の家族で過去のこととしてけりはついている。堀田には、その後のことで、相談したいことがあるのだと、美和はきっぱりと告げた。
 堀田は、2度驚いた様子だったが、一応納得した。
 しかし、堀田は、職場人として、冷静に判断した。
 それならば達郎も交えて話した方がいいだろう、と言い、土曜日に堀田の方から、八幡の方へ出向いてくれることになったのである。
 当初、美和は、達郎には内緒で堀田に会おうと思っていた。
 しかし、堀田に何もかも話してしまったことで、もはや達郎を裏切っていることになるのだ。
 しかも、それは美和がどこかで望んでいたことだった。 達郎のそして紀代子の悪行をこのまま、職場の誰にも知れずに済まされるのは、美和にとって、どこか腹立たしい複雑な気持ちがあったのである。
 美和は、達郎に何もかも話した。
 達郎は観念したかのように、とりたてて反抗することもなく全てを受け入れた。
 達郎の怒りを覚悟していた美和は、思わぬ達郎の潔い態度にホッとした。
 男の気持ちは摩訶不思議であった。136へ

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2007年09月09日

小説・私に年賀状などよこさないで

134
 あれほど望んでした達郎との結婚だった。
 15年が過ぎて、結果がこれなのか。
 いや、まだ途中なのか。
 美和は、今も、川を流されていく笹舟なのかもしれなかった。
 達郎と一緒なら何も恐くはないと思っていた感情が、いつの頃か徐々に薄れていた。
 一時は諦めかけた、達郎との絆だった。
 その切れかかった糸を、本当に結び直すことが出来たのだろうか。
 達郎は何事もないような顔をして、美和と子供たちとの暮らしに戻っていた。
 それは、取りも直さず美和が必死で取り戻した生活だった。
 なのに、達郎のその悪びれた様子のない態度が、時々むしょうに癇にさわった。
 それは、結び直した結び目が息をする度に胸につかえる感じだった。
 あれ以後、何の音沙汰もないが、紀代子は、本当に子供を始末したのだろうか。
 「他にまだ達郎の重大な秘密を知っている」
 と、思わせぶりなことを言った望月ハナ。
 あの捨て台詞の内容も気になっていた。
 美和は、やはり1度本庁の堀田に会ってみよう、と決心する。135へ

(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)

2007年09月07日

小説・私に年賀状などよこさないで

133
 「有吉君はまだ若いが、収入はどれくらいあるんですか?生活は出来るのかな」と、碁石を並べながら美郎はおもむろに、口を開いた。
 美郎は2目置いて当然黒石を持っていた。
 「収入は30万近くになると思います。何とかやっていけると思います」と、達郎はすらりと応えた。
 「へぇー、県は意外と給料もらうんですなあ」
 「いえ、給料は安いです。もちろん、美和さんと合わせての収入です」
 「えっ、…なるほど」
 美郎は、これはダメだというように、苦笑いした。
 横で美和はただハラハラしているしかなかった。
 2人は、あくまでも対局中だった。
 美和が口を挟むすきはなかった。
 達郎は全く悪びれた様子はない。美郎が心中穏やかでないこともちっとも気がついていないのだ。
 囲碁に集中しているせいばかりではない。達郎は日頃から、見栄を張るということがない。貧乏なことも、学歴がないことも、恥じることなく公言する。美和には考えられない種類の人間なのだ。
 美和には、それが新鮮に見え、引かれた所でもあったのである。しかし、時と場合によっては、あまりに明け透けに言って欲しくなかった。
 
 「貯金はあるんでしょう?」
 「いえ、ありません」
 美郎は、動揺の色を隠さなかった。
 達郎は、これにも気づく気配はない。
 「結婚費用はどうするんですか?」
 目と手を、碁盤の上で忙しく動かせていた美郎だったが、尋問も次から次へと続けていった。
 「県の共済から借りるつもりです」
 「なるほど。…会費制だけは止めて下さいよ」
 「式と披露宴のことは、友人が今手配をしてくれています」
 「なるほど。…家はどうするんですか?」
 「それは、これから美和さんと探すつもりです」
 「ほう、…あれ、そこに目があったんですか?」
 囲碁に集中出来たのか、出来なかったのか、結果は美郎が大敗した。

 その2週間後、達郎は、上司と両親を伴って再び山辺家を訪ずれた。
 美郎には、なに1つ満足のいくものではなかったが、美和と達郎の言う通りに、ことは進んでいったのである。
 結納も仲人もなしの、それなりに盛大ではあったが職場の慰安会みたいな結婚披露宴だった。134へ

(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)



2007年09月05日

小説・私に年賀状などよこさないで

132
 その次の週、今度は、達郎が美和の家を訪れた。
 美和の父山辺美郎は、比較的規模の大きな郵便局の局長代理をしていた。局では局長に次ぐ管理職である。人を見る目はあった。
 達郎とは初対面ながら同じ公務員ということもあり、比較的話しも合っているようだった。
 美和は、ひとまずホッとした。
 2人はひとしきり世間話をしていたが、ふっと話しが途切れる時がきた。
 達郎の気持ちは高鳴っていた。今だ、と思った。
 「美、美和さんと、この11月に結婚したいと思います。よ、よろしいでしょうか」
 緊張すると達郎は、吃もる癖があった。
 
 達郎は、美和から予めおおよそのことは報告を受けてはいた。
 しかし、結婚式の日取りまで決っているとは思ってもいなかった。
 「おい君、それはあまり唐突ではないかい。美和は結婚したい人がいるから連れてくると言ったが。11月に結婚するなんてことは聞いてないよ」
 「えっ、そうなんですか?」
 「それに、ものには順序があるよ。君のご両親にもまだ会ってないし」
 「両親は、僕に任せてくれています」
 「それはそうだろうけど、犬や猫の子ではないのだし」
 「はあー、そ、それならどうすればいいのでしょうか」
 「そういう話は、まず人を介して話を持ってくるのが、筋じゃないかい。結婚はもう2人で決めていることだし、私だって反対は出来ないけど。段取りとか、日取りとかはだな」
 「はあー、じゃあそのように」
 「今日は、その話はもうやめだ」
 美郎は、決して怒ってはいなかった。しかし、どこかがっかりしたようだった。
 美和は、美郎にすまないと思った。何か申訳ないと思ったのだ。
 「父さん!達郎さん、囲碁がしたいんですって」と思わず言ってしまった。
 達郎は「えっ」という顔をした。
 美郎は一瞬迷ったような顔をしたが、
 「そうですか、じゃあ1局だけお願いしましょうか」と、少し顔をほころばした。
 美和はあわてて達郎に目配せをした。
 達郎は、「はあー、僕はあまり上手くないですが…」と、和んだ顔をしたが、美和の目配せは全く無視していた。133へ

(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)

2007年09月03日

小説・私に年賀状などよこさないで

131
 達郎もそんな険悪な空気は読めていたに違いない。
「2階の俺の部屋へ行こうか」
 その場に居たたまれずに、美和をその場から連れ出したのである。
 2階建ての県営アパートだった。
 1階は居間と台所、トイレ、お風呂。2階に、2部屋あった。
 「俺の部屋といっても、俺は寝るだけ。妹が使っている。妹は寝る時は、隣の部屋で親と一緒に寝るんだ。とにかく狭いから俺が結婚して出ていけばちょうどいいんだよ」と言いながら達郎は、2階の北側の部屋に案内した。
 「おお、明子、おまえいたのか」
 4畳半の本当に狭い部屋だった。しかし、女の子が生活している部屋にしては、物が少なく、やたらと、きちんと掃除が行き届いていた。
 明子は勉強机に座って、ファッション雑誌を読んでいた。 その狭い部屋にはアンバランスなほど、その勉強机が場所を取っていた。
 彼女は既に社会人だったので、それは学生時代からのもので、そのまま愛用しているのだろう。
 「いるに決っているでしょう」
 ぶっきらぼうに応えると、美和をまともには見ないで、足元の畳を見ていた。
 顔は、達郎に似てかわいかった。母親には少しも似ていなかった。
 「まあいい、こちら、美和さんだ。お茶出してくれ、俺も飲みたいから」
 「わかった」と言いながら、ピョコンと美和に頭を下げると、階下へ降りていった。どこかまだあどけない感じのする明子の身体からも、歓迎しないオーラが、むんむんと漂っていた。
 達郎が美和を招待したがらなかったわけを、美和はつくづく身体で実感していた。
 自分が選んで踏み込もうとしている道は、舗装されていない、でこぼこの道なのだと思わざるをえなかった。
 ゆううつではあったが、不思議とこの結婚を止めようとは思わなかった。
 達郎さえしっかりしていてくれれば、何も恐くはなかった。美和にとっては、家族のことは、あまり深刻な問題ではないような気がしていたのである。132へ

(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)

2007年09月01日

小説・私に年賀状などよこさないで

130
 日曜日、達郎に途中まで迎えにきてもらい、美和は達郎の家を訪ねた。
 「ただいまーお客さんだよー」
 達郎は、玄関を入ると、不自然なほど明るく大きな声でアピールした。
 それなのに、中からは何の反応もなかった。
 まるで、家全体に、歓迎しないモードの空気が流れているような不気味な静けさだった。
 美和は張りつめた気持ちが、いっぺんに萎えていくのを感じていた。
 「上がって、ごらんの通り狭い所だけど」
 達郎は、誰も出て来ないことをちょっと気まずそうにはしたが、あえて何ごともないように、美和を居間まで案内した。
 テレビの前に座っていた父親の政雄は、美和に何の興味を示すそぶりも見せず、「こんにちは」とだけ言った。
 頭髪は大分薄くなっていたが、体格は達郎より1回り大きく、見るからにりっぱな風格だった。そして達郎によく似た、端正な顔だちをしていた。
 しかし、美和をもてなそうという気配は、みじんも感じられなかった。
 居間に続いた台所で、後向きになった母親のハルが洗い物をしていた。
 「母さん、ちょっと」
 美和が部屋まで来ているのに、振り向きもしないハルに、さすがに業を煮やしたのか、美和に申訳ないとと思ったのか、達郎は、たしなめるようにハルを促した。
 息子の呼びかけに、ハルは、仕方なさそうに振り向きはしたものの、そこから一歩も動こうとはしなかった。
 「こちら山辺美和さん。今日は梨を持ってきてくれたんだよ」
 達郎は、努めて明るく美和を紹介した。
 ―この人がおかあさん!どうしよう、最悪!達郎さんにちっとも似ていない。典型的な田舎の意地悪オバサン顔だ。しかも私の1番不得手なタイプの人―
 美和は雷に打たれたようなショックを受けていた。
 それでも、沈む気持ちを抑えて、精一杯の笑顔で頭を下げた。
 「山辺美和です。よろしくお願いします」
 政雄もハルも、それでもニコリともしなかった。それは、美和が不思議に思うほど、大人気ない態度だった。
 「これ、もらい物ですが、うちでは食べきれないので、失礼だとは思ったのですが、よかったらどうぞ召し上がってください」と5個入りの梨箱を差し出した。
 しらけた空気の中で、ありがとう、とあわてて言ったのは達郎だった。
 こんな家族がいるのだろうか。
 しかし、彼らにとって美和は、単なる息子をさらっていく敵でしかないのだろう。
 そう考えると、この非常識さは、納得いくことだった。
 達郎が言っていたように、自分たちの気持ちを息子には言えない引け目が何かあるのだろうか。そのジレンマがこんな非礼な態度に現れているのだろうか。
 美和は頭の中で、この状態を何とか理解しようと必至で模索していた。131へ

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2007年08月30日

小説・私に年賀状などよこさないで

129
 達郎と美和は年内には結婚したいという考えで一致していた。出来れば11月がいいと思っていた。結婚式の準備は、達郎の親友赤木智也が、職場の仲間たちと一緒に奔走していた。
 そんな中で、美和はあせっていた。それは、2人の夫々の家族にまだ許しを貰っていないことだった。
 達郎は、結婚しても親と一緒に暮らすわけではないので、結婚式まで、会わなければ会わなくてもいい、と言っていた。
 達郎に任せてはいられないと思った。
 ある日、美和は、決心して言った。
 「明日の日曜日、貴方のおうちへ行くから」
 達郎は、
 「別にいいけど、何しに」と、言った。
 「うちにもらいものの梨があるのでおすそ分けよ。それを持って」
 「そう、じゃあ、ちょうどいいから両親に紹介するよ」
 案外、あっさりと、美和の主旨を汲んだのである。
 美和にとっても、呼ばれもしない所へ、敢えて自分からのこのこ出かけてゆくのは勇気のいることだった。しかし、それはやはり避けては通れない道のような気がしたのである。
 まず、自分が達郎の親に認めてもらった上で、その次は、達郎を美和の親に認めてもらう必要があったのである。
 達郎の方は、美和は自分の親には会わなくてもいいが、自分は美和の家へ行き、結婚の申し込みを早くしたがっていた。
 それを、美和の方が、「もうちょっと待って」と、止めていた状態だったのだ。
 達郎を結婚相手として親に紹介する時は、達郎の家族は既に2人の結婚に賛成しているというスタンスで臨みたかったのである。130へ

(上記小説は、カテゴリー小説〔私に年賀状などよこさないで〕で連載中)