2008年04月24日

小説・測量士の恋

10
 光は、美鈴のスナップを本人が知らない所で取り続けていた。
 スナップとはいえ、光のカメラは性能がよく、拡大しても十分きれいに撮れている。
 もともと、本人に渡すつもりはなかった。美鈴は、風景と同じような単なる美しい被写体の1つだったのだ。
 でもこれはどうなのだろう。本人にばれることはないにしても、やはり断りなく撮ったことに、後ろめたい気持を拭い去ることは出来ない。それにこんなに可憐な姿が、自然に撮れているのだ。
 美鈴がこれを見て怒ることはないのでは。
 そうも思えるのである。
 しかし、親が見たらどうなるのだろう。めんどうなことになるのではなかろうか。
 そう思ったものの、とりあえず、たくさんある写真の中から6枚だけ選んでミニアルバムを作った。
 それが今手許にある。これを美鈴に渡すべきか、迷っているのである。11へ

(上記は、カテゴリー児童短編小説・つぶらなひとみ〈測量士の恋〉で連載中)

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2008年04月21日

小説・測量士の恋

bX
 翌日。
 工事は順調に進んだ。
 これでこの区間はいよいよ終了する。連休明けからは、バス停の向こう側に工事区間が移動する。
 そうなれば、もう美鈴の姿も見られなくなるだろう。
 今日までほぼ1ヵ月間、休日を除いて殆んど見かけない日はなかった。これっきりになると思うと、それでなくとも寂しいのに、やっと話しが出来た矢先のことだ。別れは、ひとしお残念だった。
 ただ、これ以上美鈴との関係がどうなるものでもない。可愛らしい野の花は、野にあってこそ、その可愛らしさは保たれるし、いつまでも心に残るのだ。
 そう思って諦めるしかなかった。
 世の中にロリコンといわれるいい大人がいることを、何となく知っている。光はそのことにちっとも関心がなかった。その存在を別に何とも思っていなかったが、今それがなぜかふと頭をかすめた。
 光は決して自分がそうだとは思わない。が、ロリコンの気持が、今、分からないでもないのだ。
 すべすべした肌、澄み切った瞳、ふんわりとかぐわしい黒髪を、目の当たりにして、心を動かされない男はいないだろう。いや女性だって、美しいと思う気持は同じだと思うのだ。花や自然を鑑賞するのと同じ感覚なのだから。
 ロリコンという代物は、それを性の対象として見るのだという。少女にしか性欲を感じない大人は、やはり光にはとうてい理解出来ない。
 光は、反対に、美鈴には永遠に少女のままでいて欲しいと願っているのだから。
 とにかく、楽しい1ヵ月であったことに、光は感謝するばかりだった。
 そろそろ美鈴が学校から帰って来る時刻が近づいていた。光はあることで迷っていた。bP0へ

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2008年04月17日

小説・測量士の恋

bW
 「わたし、宮崎へは行ったことある」
 「へー、家族旅行かな?」
 「そう、お父さんの運転で、家族5人で車で行ったの。日南海岸から青島、それから市内。青島では鬼の洗濯板や千畳敷も見てきたよォ」
 「家族旅行、よく行くの?」
 「うん、毎年行くよォ」
 「…美鈴ちゃん、大きくなったら何になるの?」
 「わかんないけど、…デザイナーかな。絵を描くのが好きだから」
 「すごいね。美鈴ちゃんならなれるよ」
 「お兄さんに何で分かるの?」
 「だって、美鈴ちゃんかわいいし、センスあるみたいだし、第一、まだ中1だろう?これから頑張れば、何だって出来るさ」
 光は、実際、美鈴ならデザイナーだって何だってなれるのではないかと思った。
 そして、美鈴のキラキラ輝いている瞳と桜の花びらのような唇、乙女刈りにした黒髪と白桃のように柔らかそうな頬を、見れば見るほど、これほどかわいい少女を見たことがないと思うのだった。
 出来れば、このままガラスのケースに入れて、ずっと眺めていたかった。
 しかし、短い昼の休憩は、あっという間に過ぎ去っていった。bXへ

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2008年04月14日

小説・測量士の恋

bV
 結局美鈴は、光が持ってきた袋いっぱいの景品を、チョコレート1箱だけ受け取った。
 「両親から、他人から只で物をもらってはいけないって、言われているんです。すみません。でもチョコだけもらいます。いただきまーす」と言うと、その場で開けて、1個をポンと口の中に放り込んだ。
 「そうだよなあ、俺だって子供が出来たらそういうふうに言うと思うよ」
 光は、あっさり引き下がった。彼にしてみれば、元々美鈴と話すきっかけが欲しかっただけなので、こうして座って話せることで、所期の目的は達したのである。
 「俺、星野光ていうんだ。君の名前は何ていうの?」
 「あーはい、山里美鈴」
 美鈴は、ペコンと頭を下げた。
 「美鈴ちゃんか、いい名前だね、中1だよね」
 「はい」と言いながら、何で知っているのだろうと、一瞬けげんな顔をしたが、そんなもの、新しい制服や持ち物や、身体つきで分かるのは当然だった。
 美鈴もすぐに笑顔に戻った。
 「朝、君と前後して通っていくお2人…、君のお姉さんたち?」
 「あーはい、1番上の姉が鈴、2番目の姉が小鈴っていうんです。鈴3姉妹なの。近所の人たちにそう言われているんです」
 「なるほど、美人3姉妹、だね!」
 「そう、それも近所の人たち、言ってるかも。なーんちゃって…嘘でーす」
 美鈴はそう言うと、くったくなく笑った。
 光は、桜のように清楚で明るい美鈴の笑顔に、知らぬ間に見とれていた。
 「お兄さんは何歳ですか?」
 「えっ!俺?24歳。…出身宮崎、独身、以後お見知りおきを」
 不意をつかれた光は、あわてて、手を兵隊さんのように顔まで上げて、おどけて見せた。bWへ

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2008年04月10日

小説・測量士の恋

bU
 4月末木曜日。週末からはゴールデンウイークに突入する。
 光は週末には実家のある宮崎に帰るつもりでいた。
 明日にはこの道路の測量も終る。同時に美鈴との別れもやってくるのだ。別れといってもそれほど大袈裟なことではない。美鈴とは、朝と帰りに挨拶をするだけの間柄なのだから。
 しかし、光にはそれが思いがけず楽しいひとときになっていたのだ。
 美鈴がはちきれるような明るい笑顔を見せてくれる度に、その笑顔が自分に対して特別な意味を持っているように思えるからだった。
 その日の昼休み、光は、いつもは車の中で食べるコンビニの弁当を、春の陽気に誘われて国道沿いの土手で食べていた。仲間の測量士はたまたま用があるといって出かけており、1人っきりのランチタイムだった。
 「こんにちは」
 ふいに後から声をかけられた光は、驚いて振り返った。
 そこにはセーラー服姿の小鈴がカバンを下げて立っていた。
 光は、心臓が飛び出すほど驚いた。そして愛のキューピットが舞い降りたと思った。
 それでも
 「ああ君か!こんにちは。どうしたの?こんなに時間に、…学校は?」と、何でもない顔をして言った。
 「今日はお昼までです。先生方の家庭訪問なの」
 「なるほど、…ねぇー、ここに掛けない?」
 「ええー、でも…」
 「いいじゃない、ちょっとだけ。ああそうだ、ちょっと待って、ここにいてね」
 そう言うと、食べかけの弁当を置いて、立ち上がった。
 今しかないと思ったのだ。
 光はおもむろに、車の中に用意していたパチンコの景品を取りにいった。bVへ

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2008年04月08日

小説・測量士の恋

bT
 面と向かってカメラを向けるのは、思っている以上に、簡単に出来るものではなかった。
 三脚に取り付け、仕事と見せかけて撮るしかないと思った。
 光のカメラはかなりいいものである。超望遠レンズ、ズームレンズを兼ね備えている。三脚に固定していると、どんなに遠くの被写体も難なく撮ることが出来るのだ。
 美鈴が行き来する度、気がつくと光はシャッターを押し続けた。
 思った以上に写真の出来はよかった。
 あっという間にミニアルバムが出来た。
 3姉妹の家からバス停までは、概ね1kmの距離があるだろうか。
 その間の道路工事は少しづつ移動していき、1週間くらいで工事区間は完全に移動してしまう。その後は、美鈴を見ることもなくなってしまう。光は、その間に少しでも話しがしたかった。
 そんな時、光は仕事帰りにたまたま寄ったパチンコで大当たりしてしまう。
 ある程度換金した残りを景品に交換した。美鈴にプレゼントしようと思い付いたのである。そういうことで、女の子の好きそうな、チョコレートやハンカチをゲットしておいた。
 翌日、それらを「パチンコの景品だから遠慮はいらないよ」と、言って渡すつもりだった。それをきっかけに話すことが出来るかもしれない。光はそんな淡い期待を持っていた。bUへ

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2008年04月03日

小説・測量士の恋

bS
 次の日、光は仕事用の外に、私物のカメラを持参していた。
 仕事柄、山の中や海の近くに行くことが多い光は、ハッとするような美しい景色や、植物に直面することがある。レンズを通して見るとそれらは一段と美しく輝いて見える。いつの頃からか、その感動をカメラに納めるようになっていた。ただ、街中の国道ではそんな感動もあるまいと、昨日までは私物のカメラを持参していなかった。ところが、昨日の朝、博多人形のようにかわいらしい美鈴を間近に見て、彼女の姿をカメラに納めたいという思いが、にわかに沸いてきたのであった。
 光はドキドキしながら美鈴が通るのを待っていた。
 が、彼女は小鈴と一緒にやってきた。
 彼女は変わらず、元気に「おはようございます」と声をかけてくれた。一緒にいた小鈴は、自分はいつも知らんふりして通り過ぎるのに、美鈴が馴れ馴れしく挨拶するのにちょっと戸惑っている風で、あわてて「おはようございます」と言った。そしてチラッと光の顔を見ると、何やら美鈴にささやいている。
 「おはよう。行ってらっしゃい」
 光は大きな声で言いながら、軽く右手を振った。昨日と違う打ち解けたような感じの光に、美鈴はあれっという感じで振り返ったが、ニコッと笑うと、手を上げて「行ってきまーす」と応えた。
 美鈴との間が急に接近したように、光は感じていた。
 そして話しながら去って行く2人の後姿を見て、あの娘たちは姉妹だったのかと、初めて気が付いたのだった。
 その時、光はまだ、彼女たちの名前も知らなかった。bTへ

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2008年03月31日

小説・測量士の恋

bR
 この現場に来て、3日目になる。
 最初はこの3人が姉妹だとは気がつかなかった。
 登校時間が微妙に違っていて、3人仲良く通り過ぎる場面がなかったからかもしれない。
 まず、高校生の鈴が脇目もふらず、すまして通り過ぎていく。
 次に、いかにも新入生というかっこうの美鈴が、何が嬉しいのかニコニコと笑いながら通り過ぎていく。目が合うと光にも「おはようございます」と元気よく声をかけてくれた。
 最後に、ばたばたと走って通り過ぎるのが小鈴。
 言われてみれば、3人はよく似ている顔だちには違いなかった。だが、それぞれ雰囲気が違っていた。
 その日、いつものように3人がそれぞれ通り過ぎていった。
 美鈴は今日も「おはようございます」と言うと、ニコッと笑ってくれた。
 切れ長の涼しい目をしていて、笑うと、目の下の頬骨に笑窪が出来る。真っ白でツルンとした肌は、まだ小学生のあどけなさが残っていた。
 たまたま側溝近くにいた光は、その朝、少女の笑顔をはっきり見ることが出来た。
 春風におとめがりにした緑の黒髪がフワッと膨らんだ。ほのかに甘い香りが漂った。
 光は美鈴のことをまるで博多人形のような少女だと思った。bSへ

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2008年03月27日

小説・測量士の恋

bQ
 星野光は、こののどかな田舎町を通っている国道の、拡幅工事における測量に従事している若き測量技師である。
 光は青井測量事務所に就職して3年、今年25歳になる。
 工事現場の測量、橋や道路等公共事業の測量等、現場を渡り歩いているのであるが、光にとって、今度の仕事のように時々人々に接する機会がある仕事は、やはり何となく心が浮き立つのであった。
 田舎であるが、バス停があることで、特に朝夕は人通りがある。
 時は春、制服も真新しい女子学生が、この国道を利用して行き来するのを目の当たりにするのは、毎日の仕事に張りを与えてくれるのだった。
 彼女たちが通り過ぎる度に、光の鼻面を甘酸っぱい香りが撫でていった。
 測量技師の役得は双眼鏡を三脚にセットすると、どんなに遠くでも標的にしたものを、堂々と覗いて見ることが出来ることである。
 光は、可愛い娘が視界に入ると、やはりつい、それとなく双眼鏡を向けてしまうのを禁じえなかった。bRへ

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2008年03月25日

小説・測量士の恋

bP
 美鈴はこの3月、小学校を卒業した。
 4月からはいよいよ中学生になる。
 彼女はずっとこの日を心待ちにしていた。
 なぜなら、中学生になると、制服がありバス通学になるからだ。
 美鈴は3姉妹の末っ子である。
 長姉、鈴は高校3年生、次姉、小鈴は中学3年生で、それぞれバス通学をしている。鈴はすらりとした長身に良く似合う紺のブレザーとひだスカートが制服だった。小鈴の制服は紺に白線2本のセーラー服である。姉たちの制服姿はそれぞれとてもかっこよく、美鈴はそれがとても羨ましかったのである。
 そして、ようやくその日がやってきた。
 いよいよ、美鈴は、念願のセーラー服を着て、小鈴と同じ中学校に、バス通学することになるのである。bQへ

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2008年02月28日

児童小説・つぶらなひとみ

蕗の董(フキノトウ)
 おかあさんが、道端の土手に芽生えたフキノトウを籠にいっぱい摘んできました。
 フキノトウは、若草色の額に、白っぽい蕾がたくさん固まっていて、卵のような形をしています。
 今夜はきっとてんぷらだと、美鈴ちゃんは思いました。
 美鈴ちゃんは、実はフキノトウがあまり好きではありません。
 実は昨年もおかあさんは、フキノトウのてんぷらを作りました。
 その時食べた味が急に蘇ってきました。
 お口の中にフワ―と広がるほろ苦さが、美鈴ちゃんにはちょっと苦手だったのです。
 でもお母さんは、フキノトウが大好きみたいなのです。
 「今日は、フキノトウのてんぷらだよ」と、嬉しそうに言いました。
 「えっ!それだけなの?」と美鈴ちゃんは不満そうに言いました。
 「ううん、椎茸や人参もいっしょにてんぷらにしようね。それとおうどん、それとお刺身」
 「それだけ?」
 「それだけって、美鈴はフキノトウが嫌いかい?」
 「うん、あんまり好きじゃない。だって道端に生えている草なんでしょう?」
 「このフキノトウはお隣のおばあちゃんが植付けたんだよ。一昨年まではおばあちゃんが摘んでいたんだよ。それを、おすそわけで頂いていたの。おばあちゃんが一昨年老人施設に入ちゃったから、誰もフキノトウを摘む人がいなくなったの。だからおかあさんが摘んできたんだよ。おばあちゃんが丹精をこめて育てたんだから、無駄にしたらもったいないでしょう」と、おかあさんはしみじみとした感じで言いました。
 お隣のおばあちゃんは息子さんと2人暮らしをしていましたが、一昨年の冬に急に施設に入ってしまいました。
 おばあちゃんは元々足が悪かったのです。
 それで、だんだん弱っていき、とうとう家事が出来なくなったから仕方なく施設に入ったのだと、おかあさんは言っています。
 おかあさんは、2度お見舞いに行きました。
 2度目に行った時、おばあちゃんは、もう何もしゃべらなかったそうです。おかあさんは、自分が誰だか分かってもらえなかったとがっかりしていました。
 ただ、入所している他のおじいちゃんやおばあちゃんが次々に寄ってきて、
 「あんた、この人の娘さんだろう、連れて帰るのかい?」と羨ましそうに、聞いてきたそうです。
 おかあさんは、なんだかとてもせつなかったそうです。

 その夜、食卓には若草色のフキノトウのてんぷらが並びました。
 美鈴ちゃんは、おばあちゃんのことを思い出しながら口に入れました。
 外はパリッと、中はモチッとした歯触りでした。でも最後にやはり、お口の中に、ちょっと痛苦いような味が広がりました。
 美鈴ちゃんは、おばあちゃんを思いながら食べたので、それがとても切ない味に思えました。
 おかあさんは、美味しそうに頬張りながら、
「これを食べると春がきたなあと思うわねえ」と言いました。
                      お わ り


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2007年08月28日

児童小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
bW
 お祖母ちゃんは、その後、曾お祖母ちゃんを看取り、自分もどんどん歳をとっていきました。
 すずちゃんも成人になり、お祖母ちゃんのうちにはお盆とお正月くらいしか、行かなくなりました。
 お祖母ちゃんはいつの頃か寝たきりになりました。
 そのお祖母ちゃんの面倒を看てくれているのは、結局、お祖母ちゃんが再婚する時、置いていった雄介さんでした。
 3階建ての自分が生まれた家ではなく、雄介さん家族が住む小さな家で、最後まで、雄介さんと奥さんに気兼ねしながら亡くなっていきました。
 すずちゃんのおかあさんは、かわいそうに思っても、時々お見舞いに行くことしかできなかったのです。
 源吉さんは既に亡くなっていましたが、お祖母ちゃんが生んだ息子さんは、お葬式には来ませんでした。
 すずちゃんは、お祖母ちゃんの人生を悲しく思いました。
 息子さんの人生も、きっとかわいそうだったんだ、と思いました。
 でも、お祖母ちゃんは、不幸せだったのでしょうか。ほんとうは幸せだったのかもしれません。
 なぜなら、お祖母ちゃんが愚痴を言っているのを、すずちゃんは聞いたことがなかったのですから。
               お祖母ちゃん おわり

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2007年08月26日

児童小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
bV
 すずちゃんは、その後も幾度となく、お祖母ちゃんのうちを訪れました。
 その度に、お祖母ちゃんはいろいろなものをすずちゃんにプレゼントしてくれました。
 お祖母ちゃんが1度たりとも怒ったことを見たことはありません。
 帰りには、いつも封筒に入れてお小遣いをくれました。いつもなかみは500円でした。すずちゃんにあげるために、500円硬貨を貯めていたのかもしれません。

 すずちゃんが中学生になった頃、お祖母ちゃんは、源吉さんと離婚して、また曾お祖母ちゃんの所へ帰ってきました。
 家族はみんな喜びました。
 当のお祖母ちゃんもせいせいしているようでした。
 すずちゃんは、「ほんとうにせいせいしているのかな」と、思いました。でも、おかあさんは、絶対そうだと言い張りました。
 その頃、すずちゃんは、そんな人がいるとは知らなかったのですが、断絶状態だったという源吉さんの長男が、家族を引き連れて帰ってきていたのです。
 すずちゃんは、きっとそのことも影響していると思いましたが、お祖母ちゃんは、そうではないと、言っていました。
 そんなことは、どうでもいいことです。お祖母ちゃんさえ幸せならば。

 曾お祖母ちゃんの家は、お祖母ちゃんの長男家族、いわゆるおかあさんの弟家族ですが、家を出ていました。夫婦とも教師をしているのですが、2人とも町なかの学校に転勤になっていたのです。
 お祖母ちゃんは、相変わらず忙しい毎日を送っていました。畑は井川家にもたくさんあったので、野菜作りも今まで通りなのです。
 おかあさんは、お祖母ちゃんは、源吉さんの世話をしないだけでも、楽になったのだ、と言っています。
 源吉さんとの間に出来た子供のことを、お祖母ちゃんはきっと気にかけているのでは、とすずちゃんは思いました。おかあさんにとっても弟になるのです。
 それについても、おかあさんは、「彼はもう結婚しているし、何も心配することないのよ。他人と同じよ」と、冷たく言い放ちました。
 事実、お祖母ちゃんは、決してその息子さんのことは、口にしませんでした。bWへ

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2007年08月24日

児童小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
bU
 すずちゃんとおかあさんの食事が済むと、お祖母ちゃんは曾お祖母ちゃんがいる3階建てのお家の方へ移動しました。曾お祖母ちゃんの食事を用意するためです。
 すずちゃんとおかあさんも、もちろんついていきました。
 その間、おかあさんとお祖母ちゃんは、ずっと話をしています。
 すずちゃんは、2人のお話を黙って聞いていました。
 お祖母ちゃんは、すずちゃんのことも、ちゃんと気にかけてくれていて、手作りのお手玉、ぬりえとクレヨンなどいつの間にか用意してくれています。
 すずちゃんは、おかあさんとお祖母ちゃんの楽しそうな会話を聞きながら、それらで遊びます。それが、すずちゃんも楽しくてたまりません。
 お祖母ちゃんは、洗濯やつくろいものもします。おかあさんは、お祖母ちゃんについてまわり、手伝いながらではありますが、ずっとお祖母ちゃんとお話しをしています。
 すずちゃんが、おかあさんのことを大好きなように、おかあさんは、お祖母ちゃんが大好きなのです。
 お祖母ちゃんはいっときも休むことはありません。

 しばらくして、再び白壁のおうちへ戻り、今度は畑へ行きました。
 すずちゃんとおかあさんも、もちろんついていきました。
 大根とホウレンソウを抜いて、中庭の井戸水でそれらを洗いました。
 すずちゃんも手伝いました。3人で洗ったのですぐ終りました。
 「すずちゃん、これは持って帰っておかあさんに料理してもらってね」と言いながら、お祖母ちゃんは、大根とホウレンソウをナイロン袋に詰めてくれました。
 すずちゃんは、「うん、ありがとう」と言いましたが、ちょっとがっかりしました。
 これがおみやげか、と思ったからです。
 おかあさんは「おみやげももらったことだし、そろそろ帰ろうか」と、言いました。
 「すずちゃん、また来てね」と言うと、お祖母ちゃんは、すずちゃんのポケットにそっと小さい封筒を入れました。
 すずちゃんは、ポケットに手を入れて袋をさわってみました。硬貨が1枚入っているようでした。たった100円、と思いました。
 なぜか、お礼を言いそびれました。
 おかあさんは何も知りませんから、「ちゃんとお礼を言いなさい」とも、言いませんでした。
 翌日になるまで、すずちゃんは、そのことをすっかり忘れていました。
 翌日の午後、すずちゃんは、100円もらったことを思い出し、ポケットから出してみました。
 中には、なんと500円硬貨が入っていました。
 お祖母ちゃんの顔が浮かびました。
 「お祖母ちゃん、ごめんなさい」
 すずちゃんは、金額が少ないことを不満に思っていたので、きっと変な顔をしていたと思ったからです。
 お祖母ちゃんの優しいことはよく分かっています。
 その優しさが1番好きなのに。
 すずちゃんは、今度会ったらちゃんとお礼を言おうと思いました。bVへ

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2007年08月22日

児童小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
bT
 おかあさんが、すずちゃんに話してくれたことがあります。
「源吉さんは…」源吉さんとは旦那さんの名前です。
「源吉さんは若い頃から、お祖母ちゃんが好きで好きでたまらなかったのよ。お祖母ちゃんは井川家の1人娘で、跡取りとして大事に育てられたお嬢さんだったの。しかも美人だったし、頭もよかったし。
 源吉さんには高値の花だったのに、お祖父ちゃんが亡くなってからというもの、ここぞ、とばかり、優しいことばをかけたり、優しい態度をとったりして、お祖母ちゃんにつきまとったのよ。源吉さんにとっては、お祖母ちゃんをその気にさせるのは、赤子の手をひねるより簡単なことだったのね。お祖母ちゃんはそれほど無垢だったのよ。
 周りの誰もが反対したのに、お祖母ちゃんは、結婚して家を出ていったの。曾お祖母ちゃんはもちろん、自分の子供も置いて。雄介はまだ中学生だったの」雄介とは、おかあさんの1番下の弟です。
 「信じられないでしょう。近所でも皆驚いていたわ。お祖母ちゃんの評判はガタ落ちよ。当然よね、源吉さんは、金融業であこぎな事をしていて、嫌われ者だったんだから。源吉ならやりかねないけど、まさかお祖母ちゃんがその尻馬に乗るとはね、と思われたのね。1番の被害者は雄介だった。イヤダ、行かないで、って泣いてすがったんだけど。お祖母ちゃんは母としてより、女として生きるのを選んだのかしらね。それは今でもよく分からないけど…。お祖母ちゃんはそれまでとても優しいお母さんだったから」
 また、おかあさんは、こうも言った。
「でも、結局はお祖母ちゃんも、自分が騙されたことをすぐに気がついたの。でも後悔した時には子供が出来ていたの。源吉さんは、結婚してしまうと、もとの恐いおじさんに戻って、お祖母ちゃんは使用人扱い。いつも台所にしかいないでしょう。もちろん、お祖母ちゃんはあそこが1番落ち着くらしいけどね」
 すずちゃんは、おかあさんが話してくれたことを、全部理解しているわけではありません。おかあさんも、すずちゃんに、こんな大人の話をするのはどうかと思うのですが、お祖母ちゃんの今の状況をすずちゃんに説明しようとすれば、避けては通れないことだったのです。bUへ

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2007年08月21日

児童小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
bS
 お祖母ちゃんの旦那さんは、たいてい留守でした。
 おうちは天井の高い平屋建てです。お部屋は6個くらいありますが、実は、すずちゃんは今まで1度も家の中に上がったことはありません。ずっと前に、土間の上がり階段に腰掛けて中を覗った時、奥の座敷に和服を着たかっぷくのいい旦那さんが虫眼鏡で新聞を読んでいるのが見えました。旦那さんが顔を上げた時、偶然目が合いました。すずちゃんは睨まれたような気がしてとても恐かったのです。
 おかあさんも旦那さんが嫌いみたいで、なるだけ、顔を会わせないようにしているようです。
 旦那さんは金融業をしていましたが、今は隠居しています。でも、もともと資産家で、山、田、畑がたくさんあるのです。自分では何もしていなくて、田畑は他人に貸しているらしいのです。
 そんな中で、お祖母ちゃんは、家の周りの畑だけは他人に貸さず、自分で野菜を作っています。すずちゃんにも、いつも取れたての野菜を食べさせてくれます。山には、みかん、柿、ビワ等があります。
 お祖母ちゃんがすずちゃんの家に来ることがあるとすれば、そういう野菜や、果物を持ってきてくれる時です。もぎたてのものをかついで持ってきて、すぐに帰っていきます。
 おかあさんが、その度に「ゆっくりしていけば」と言うのですが、「忙しいから」とすぐに帰ってしまいます。
 おかあさんは、お祖母ちゃんを引き留めたくて「旦那さんにどうしてそんなに気兼ねするの?」と、言います。すると「そんなことではないのよ」と、悲しそうな目をして、お祖母ちゃんは笑っていました。bTへ

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2007年08月17日

児童小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
bR
 白壁の家は、玄関を入るとすぐ広い土間があり、その土間は裏口まで続いていました。
 裏口を出ると、中庭があり、屋根続きで独立した台所がありました。
 おかあさんは、開けっ放しの玄関で「ごめんください」と大きな声で言うと、返事を聞くこともせず、ずんずん奥へと進み、真直ぐに台所へと向かいます。

 お祖母ちゃんは、いつも台所にいました。
 「あら、すずちゃん、いらっしゃい。よくきた、よくきた」と、すずちゃんの頭を撫でました。
 「歩いて来たのかい、疲れただろう。ジュース飲むだろう?」と、言って冷蔵庫からジュースを出してくれました。
 「もうすぐ、お昼だね。ご飯食べようね」
 お祖母ちゃんは、たとえお昼でなくても、「ご飯食べていきな」と、ご飯を必ず食べさせるのです。
 おかずは決してすずちゃんが好きなものとは限りません。ただ、ご飯はいつも山盛りです。
 おかあさんが「ご飯は少しでいい」と、何回言っても、お祖母ちゃんはひるむことなく、毎回大盛りにするのです。
 すずちゃんがぐずっていると、「卵かけご飯にすればいい」と言って、卵をかけてくれます。すずちゃんは、この山盛りごはんには少々困ってしまいます。
 食後のデザートには、果物を出してくれます。
 決って、バナナ、リンゴ、イチゴ、夏にはスイカです。
 すずちゃんは、果物が大好きなので、この時ばかりは、たくさん食べます。それでもどうしても余ってしまいます。
 お祖母ちゃんは、人に食べ物をたくさんふるまうのが好きみたいなのです。
 おかあさんとすずちゃんが食べるのを、いつもニコニコしながら側で見ています。
 おかあさんは、「お祖母ちゃんの料理はおいしいね」と、ほんとうにおいしそうに食べますが、すずちゃんは、おかあさんの料理の方がおいしい、と思っています。bSへ

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2007年08月14日

児童小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
bQ
 お祖母ちゃんの家は海辺の街にあります。
 今はまだ春ですが、夏には海水浴も出来るし、夏の終わりには花火大会も毎年行われています。
 だから、すずちゃんは、おばあちゃんの家がほんとうに好きなのです。
 それに、お祖母ちゃんの家は2軒もあるのです。
 海辺の街並が始まる入口の角に3階建ての大きな家、それより10軒くらい先に白壁のこれまた大きな家との2軒です。
 お祖母ちゃんは概ね白壁のおうちに居ます。
 3階建ての方には、曾お祖母ちゃんがおかあさんの弟家族と住んでいます。
 お祖母ちゃんは、1人娘でお祖父ちゃんは婿養子でした。
 お祖父ちゃんは校長先生だったのですが、50歳になる前に病気で亡くなりました。
 お祖母ちゃんも、元教師だったのですが、お祖父ちゃんが校長に昇進した時、辞めてしまっていました。
 その後、お祖母ちゃんは、白壁の家の、ご主人と再婚したのです。ご主人は奥さんに先立たれていたのです。
 再婚後、その新しい旦那さんとの間に男の子が授かりました。
 その子は、東京の大学へ行っているので、今お祖母ちゃんは旦那さんと2人だけで暮らしています。
 お祖母ちゃんは、曾お祖母ちゃんのお世話をするため、しょっちゅう3階建てのお家へ帰っているのです。曾お祖母ちゃんはずいぶん歳をとっているので、長いこと納戸で寝たきりの状態なのです。
 おかあさんの弟夫婦は2人とも教師をしているので、お祖母ちゃんは、通いで、曾お祖母ちゃんのお世話をしているのです。

 おかあさんは、必ず最初に曾お祖母ちゃんの所へ寄ります。自分とすずちゃんの顔を見せるためでもあるのですが、お祖母ちゃんが来ていないか確かめるためでもあるのです。

 その日は、そこにお祖母ちゃんはいませんでした。
 「おばあちゃん、また来るね」と言って、数分くらいで曾お祖母ちゃんの枕元は退散します。
 その時、曾お祖母ちゃんは、必ず、「もう行くの。ありがとう。また来てね」と、言います。
 おかあさんとすずちゃんは、いつもちょっと後ろめたさを感じます。
 もうちょっと遊んでいけば喜ぶだろうなあ、と思うからです。bRへ

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2007年08月13日

児童短編小説・つぶらなひとみ

 お祖母ちゃん
 bP
 お母さんの足が急に速くなりました。
 すずちゃんは、お母さんと手をつないでいたので、手が離れないように小走りしながら、一生懸命についていきました。

 今日は朝からおかあさんはウキウキしていました。
 すずちゃんはそれがなぜか分かっていました。
 おかあさんは、お祖母ちゃんのおうちに出かける時は決ってこうだからです。
 すずちゃんだって優しいお祖母ちゃんが大好きなので、お祖母ちゃんの家へ行くのは嬉しいのですが、おかあさんほどではないと思っています。
 おかあさんは、その日は、朝早くから、張り切ってお家のお仕事を片付け、おしゃれをします。そしてすずちゃんにもきれいなお洋服を着せます。すずちゃんはそれがとても楽しみでした。

 隣町のお祖母ちゃんの家までは、歩くと40分はかかります。
 すずちゃんは、バスで行きたいのですが、何しろ田舎なので、バスは、午前中は朝早くしか来ないのです。次はお昼まで来ません。おかあさんは、お昼まで待てないのではないでしょうか。
 すずちゃんの手を引いて歩いて出かけます。
 時々、歩きながら、お歌も歌います。
―おてて〜つないで〜野道をゆけば〜―

 家族は会社勤めのお父さんと、小学3年生のお兄さんがいるのですが、お昼間は、いつもおかあさんとすずちゃんの2人きりなのです。
 いつの間にか、おかあさんの一喜一憂が分かるようになっていました。
 
 すずちゃんはおうちを出てから長いこと歩いているので、すっかり疲れてしまい、足がだんだん重たくなっていました。
 そんな時、急におかあさんの足が速くなるのです。
 そうです。お祖母ちゃんの家がもうすぐなのです。これも毎度のことなので、すずちゃんにはちゃんと分かっていました。
 「お祖母ちゃん、いるかなあ」と、おかあさんに言ってみました。
 お祖母ちゃんは居るに決っていました。今まで一度たりともお祖母ちゃんが留守だったことはありません。
 おかあさんの、お祖母ちゃんに1分でも早く会いたい気持ちに拍車をかけたのか、おかあさんの足はますます速くなりました。2へ

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2006年12月09日

児童短編小説・つぶらなひとみ

 口笛
 良雄くんは保育園の年長組さんです。
 おとうさんもおかあさんも働いているので、良雄君は毎日だいたい夕方5時頃までを保育園で過ごします。
 5時頃になると、お友達も良雄君も、保育園バッグを肩にかけ、お帽子もかぶります。そして、テレビの前で小さなかわいい椅子にかけて、お迎えを待つのです。
 お友達より1分でも早くおかあさんにお迎えにきて欲しいのです。
 良雄君だけでなく、お友達もみんなそう思って、お迎えを今か今かと待っているのです。
 良雄君は少し不満でした。
 おかあさんのお迎えがいつも遅いからです。たいてい、あと3人しか残っていない、というまで来てくれません。
 でも、
「ごめんねよっちゃん、遅くなって」と、ハアハアと息を弾ませながら駆け込んでくるおかあさんを見ると、いつも許してしまうのです。
 おかあさんは必ず良雄君を抱きしめます。そうすると良雄君は、照れくさそうニコッと笑います。
 先生とお友達に「さようなら」と言って、2人は手を繋いで帰ります。

 保育園の門を出た所で、突然、良雄君がおかあさんの手を振り切って前方へ走っていきました。
 何事かと思うと、その先に、濃紺のスーツを着た背の高い男の人がこちらへ向かって歩いてきていたのです。
 おかあさんもハッとしました。
「えっ、あなた?」と思ったのです。
 すると、良雄君がいきなり飛びついていったのです。次の瞬間、あわてて離れました。
 そして、両手を後に組んで、下を向いたり上を向いたりしていました。
 そして、まだうまくない口笛を必死に吹いていました。
 おかあさんは、その姿が大人のようで、思わず笑ってしまいました。

 それにしても、その男の人はおとうさんによく似ていました。
 お父さんは銀行員なので、いつも紺色のスーツをきています。それに痩せているし、眼鏡の縁も一緒だったし、何よりとても優しそうなところまでそっくりでしたから。

 その男の人も間違えられたと分かって、照れくさそうに笑って通り過ぎていきました。
 おかあさんも、会釈しながら、良雄君がおとうさんと間違えるはずだ、よく似ている、と思いました。

 でも、良雄君はこれが1度ではないのです。
 おとうさんによく似た人が多いとみえて、これまでにも何度か同じ失敗をしています。
 紺色のスーツ姿で痩せ型で眼鏡は、すぐお父さんに見えてしまうらしいのです。
 これは、きっと良雄君がおとうさんを大好きなせいだからでしょう。
 おかあさんはそう思っているのです。

(上記児童小説は〔児童短編小説・つぶらなひとみ〕で連載中)
 
 
posted by hidamari at 16:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説・つぶらなひとみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする